プリムラオブコニカ
余計なことを言わず、ひっそり静かに花と化していれば良い。そうすれば立派な殿方に見初められ、何不自由なく生きていける。そう教えられてきたから、そうやって生きてきた。言いたいこと、やりたいこと、色々あったけれども、口に出すべきではない。私はいつも上品な微笑みを浮かべて、黙って相手の言葉に頷くだけ。確かにそれで良縁に恵まれ、愛すべき子どもも産まれた。これで私の人生には何の問題も無い、筈だった。
突然、夫が失脚した。
信用していた友人に手ひどく裏切られ、心も体も、財産さえもずたずたに引き裂かれてしまった。すぐには立ち直ることのできない深手を負った夫の、弱り切った姿を見て、私は淑やかでいることをやめた。
まずは、ずっとやってみたかった美術商としての道を開拓した。元々夫の家に伝わっていた骨董品を元手に、今まで多くの美術品に触れてきた眼を信じて作品を購入し、それまで対等に接してきた貴族たちに売って回った。陰で馬鹿にされているのも分かったけれど、私の眼を信じて購入してくれる人もいた。
そちらが軌道に乗り始めたら、次に新進気鋭の美術家たちを支援する団体を作った。信用できる人間を探して雇い、画廊の管理も任せた。そこで定期的に展覧会を開き、少しずつ売上を伸ばしていった。
私は考え、考え、そして話した。多くの人と意見を交わし、前進していった。やがて活動が完全に回り出した頃、夫が精神の迷路から生還した。
「君は……」
と、彼は言った。眩しそうに目を細めながら。
「花などではなかったんだな」
「ええ、そうみたい。こんな私はお嫌い?」
首を傾げて尋ねると、答えの代わりに熱烈なキスとハグが返ってきた。
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