白バラ

 初めに贈られたのは、一本の白薔薇だった。行きつけの喫茶店の店員をしていた貴方が、他の客のいないタイミングを見計らって、跪いて差し出してくれたのだ。何かのサービスだと思って気軽に受け取って、帰宅してからその意味を検索し、顔が熱くなったのを覚えている。

 それから暫くぎこちない会話をする期間が続いて、私の方から三本の白薔薇を贈った。店以外で会うことが増え、一気にお互いのことを深く知るようになった。

 プロポーズは二十四本の白薔薇と共に、貴方からされた。私からしようと思っていたので慌ててしまって、誤解させてしまったっけ。一緒に暮らし始めてからは、誕生日のたびに、贈り物と一緒に七本の白薔薇を貰った。毎回照れてしまって、毎回、貴方に笑われた。

 子どもができてからはトゲが不安で、二人とも花を贈り合うことは無くなった。子どもが独り立ちしたら、また沢山贈り合うつもりでいた。

 それなのに。

 身の丈にきっちり合った木の箱に収められた貴方の周りに、九十九本分の白薔薇の花を敷き詰める。見慣れた寝顔にそっくりの、その安らかな表情と、嗅ぎ慣れた香りが、私を慰めてくれる。隣で不思議そうに花を確認していた子どもが、小さくくしゃみした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る