カラスウリ

 男嫌いで有名なカラス先輩は、校内で男子とすれ違う度に顔をしかめ、露骨に避けようとする。年齢や立場も関係なく、例えば公園で無邪気に遊ぶ、小さな男の子でさえ嫌う。そんなでは父親に対する態度はさぞかし酷かろうと思って聞いてみたら、小さな頃に両親が離婚していて父親は家にいないと言う。

「男なんてみんな気持ち悪いじゃん? なんでみんな普通に接してられるわけ?」

 綺麗な黒髪を弄りながら、先輩はいつもの口癖を吐く。美人で男に好かれるという境遇は、先輩には迷惑でしかないようだ。それにしても、男の何がそんなに気持ち悪いのか……ずっと気になっていた疑問が、ある日解けた。先輩のお家に招かれた時のことだ。

 壁に、小さな頃の先輩が描いた絵が飾られていた。子どもらしい素朴な人間が二つ。そしてパッと見ただけでは毛虫か何かにしか見えない、人間サイズの不気味な生き物が並んで描かれていた。

「え? それ? パパだけど」

 先輩は当たり前のように言った。まさか、と思い、試しに担任の先生の似顔絵を描いてくれるように頼んでみた。不思議そうにシャーペンを走らせた先輩は、やはり毛虫のような生き物を描いた。クラスメートの男子も、テレビで人気の俳優も、男を描かせると絶対にそうなった。反対に女の子を描いてもらうと、そんなに上手くはないけれど、それなりに普通の女の子の絵になった。

「いや本当さ、なんで男と女って、こんなに見た目が違うんだろね。同じ生き物とは思えないよ」

 ほとほと呆れ果てたと言うように、先輩はぼやいた。

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