レモン
その日、駅前のデパートはいつもと違ってピリピリしていた。爆破予告が届いたのだ。予め分かっていれば臨時休業に出来た筈だが、従業員がその予告メールに気がついたのは、予告時間の一時間前だった。なんとか客と従業員の避難が完了し、警察は店内の不審物捜索に乗り出した。
「しかし手掛かりが無いのは厳しいよなあ。何か……予告メールの文面にヒントとか無いか」
爆発物処理班の男はあちこち走り回りながら、屋外に待機している上司に電話を掛ける。
「はい、はい……え? 黄金色に輝く爆弾って書いてあったんですか?」
男の足ははたと止まる。予告時間まで、あと十分しか無い。このまま闇雲に捜索するより、一縷の望みに賭けてみるか……。店内見取り図は頭の中に入っている。踵を返し、男は『美術』コーナーへと猛スピードで駆け出した。
果たして、そこに「黄金色の爆弾」はあった。数多の美術書を積み重ねて作られた色彩の城の、絶妙なバランスの上に、カーンと冴えかかって載っていた。
こうしてデパートは爆発を免れ、爆発物処理の基礎知識として、日本文学が必修となった。
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