ガイラルディア

 勇者は、マネジメント業である。

 オレも一人で村周りのモンスター達を相手に技を磨いていた時には知る由も無かったが、旅の途中に出逢った同志達と寝食を共にする内に、徐々に分かってきた。

 魔王を倒すだけが勇者の役割ではない。一癖も二癖もある仲間達を束ね、喧嘩が起これば仲裁し、常に先頭に立って士気を高め、時には場を和ませる冗談の一つも飛ばせなければ、勇者としてやっていくことは出来ないのである。

「勇者様ぁー、あたし疲れちゃった、休憩しましょうよお」

「これだから回復役は使えないんだよな。もっと体力つけろよ」

 先ほど村を出たばかりだと言うのに早くも険悪な雰囲気になっているのは、回復魔法の使い手である魔女と、体力自慢の戦士だ。二人とも旅の初期から一緒にいるにも関わらず、一向に打ち解けようとしない。

「まあまあ二人とも。とりあえず、あの丘のあたりまでは頑張ろうよ、ね?」

 オレの言葉に渋々頷き、魔女は再び歩き出す。戦士はこれ見よがしに舌打ちし、他のメンバーは「またか」という顔で後に続く。

 結局、その日は魔王の城まであと少しというところで野営することになった。メンバーは各自好き勝手に散らばって寝床を確保し、食事が終わるとさっさと解散してしまった。

「昔は毎晩が宴会みたいなもんだったのになあ」

 ひとりごちながら習慣となっている夜の見回りを終え、オレも自分の寝袋に潜ろうとした時だった。押し殺したような声が、茂みの奥から聞こえた気がした。そっちは見回っていなかったな、と思いながら近づいたオレは、ひどく後悔した。

 昼間はあんなに仲が悪かった魔女と戦士が、同じテントの中で恋人同士のように並んで寝ていた。

「毎日毎日、仲が悪そうにするのも大変だよな……おれ、言い過ぎたりしてないか」

「ううん、むしろ、ちょっとゾクゾクして嬉しいくらいよ。早くこの旅を終えて、一緒になりましょうね」

 オレは早足で自分の寝袋に帰った。もう何も信じられない。

 とにかく早く魔王を倒して、平和な村での生活に戻ろう……。そう、決意を新たにした。

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