ルリマツリ
傷を見ると、掻き毟りたくなる。
それがどんなに些細な擦り傷であっても、かさぶたが出来る前に指で開いて、赤く滲む液をじっと見つめていたくなる。
それが他人のものなら、尚更だ。
「それで……それでね、そいつ、もう私のことなんて好きじゃないって」
目の前で、ひっくひっくとしゃくり上げるクラスメートは、つい昨日まで大声で惚気話をしていた筈だ。それが今はどうだ、こんなに傷だらけで。
私は包帯と消毒液を手にした看護師の如く、彼女に手を差し出す。
「それは酷いわ。本当に辛いでしょう」
「うん……」
「それで、貴方はどうしたいの?」
「私は……もう一度、彼と話したい……」
「本当に?」
「え……」
てっきり励まされるとでも思っていたのか、クラスメートは目を丸くした。
私は上がりそうになる口角を叱咤して、言葉を続ける。包帯も消毒液も蹴り捨てて、差し出された傷口に塩を擦り込んでいく。
「貴方、本当に可哀想。きっと今は傷つきすぎて混乱しているんだわ。自分のことをそんなに傷つけた酷い相手ともう一度話しても、もっと傷つくだけよ、そうに決まってる」
「で、でも……もう一度話せばきっと……」
「だめよ、今だってこんなに傷ついているのに、こんなに可哀想なのに、これ以上傷つきたいの? 傷つけられたいの?」
クラスメートは身を縮め、視線を落とし、椅子の上で小さく震えている。その冷たい頬にそっと触れ、耳元で囁く。
「もう貴方のことなんて要らないって……そう、言われたんでしょう?」
クラスメートの中で何かが決壊したのが、私には分かった。泣き出した彼女を優しく抱きしめ、あやすように言う。
「大丈夫、大丈夫よ。私はそんな……貴方のことを要らないなんて、嫌いだなんて、見たくないだなんて、一緒にいたくないだなんて言わないわ……決して、そんな、彼のように酷いことは」
ああ、赤い血が散らばって宝石のようだ。恍惚として微笑む。
「貴方って、本当に可哀想」
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