デュランタ

 今年十歳になる息子は健やかに育ち、毎日学校の友だちと、グラウンドで遊んで帰って来る。泥だらけになった服をそのまま洗濯機に入れるようなことはせず、まず玄関で大きな汚れを落として、簡単に手洗いしてから入れることができる。今日学校であったことを逐一わたしに報告してから、宿題に取り掛かる。

「今日の宿題は算数だよ」

 聴いてもいないのに教えてくれる。わたしも色々教えてやれれば良いのだけれど、そうもいかない。一時間ほど頭を捻ったようだけれど、どうにか宿題を終えたころに、夫が帰宅する。息子の顔はぱっと明るくなり、夫の脚に抱きつく。

「こらこら、歩けないよ」

 夫は楽しそうに息子の頭を撫で、微笑んだまま、わたしに「ただいま」と告げる。

「お父さん、今日のご飯何ー?」

「今日は頑張って、ハンバーグ作っちゃうぞ」

「やったあ!」

 息子は夫の作るハンバーグが大好きだ。手伝うよ、と言いながら、小さなエプロンを身につける。いつの間にか手先も器用になったものだ。微笑ましく見つめている間に、二人はハンバーグを作り終え、息子の好きなテレビアニメを見ながら団欒が始まる。息子は、夕方わたしに一度話した話を夫にもして、二人して笑っている。

 ああ、家族って良いな。

 しみじみと感じる。

 幸せなひと時が過ぎ、夜九時、息子は眠たげな目をこすりながら、わたしの前にお線香を立てる。

「お母さん、今日も楽しかったよ。いつも見守ってくれて、ありがとう」

 ああ、わたしも楽しかった。ありがとう。本当にありがとう。

 息子の枕辺で、そっと、その前髪を整える。明日も楽しく幸せに、あなたが過ごせますように。

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