ゼフィランサス
前とは違う学校。前とは違う先生。前とは違う友だち。遊ぶ場所も違えば、遊び方も違う。鬼ごっこのルールすら細かなところで違っていることに、少年は驚いた。
それでも日々は巡り、あっという間に半年が過ぎた。転校生扱いをされなくなって久しい。気の合う友だちも出来て、新しい居場所に慣れてきた気もする。
けれど、引っ越してきてからの習慣は変えられない。こちらに来てすぐ、まだ新しい学校に登校もしないうちに、前の学校の友だちへ手紙を書いた。その返事がいつ来るかとワクワクしながら郵便受けを覗くのが、日課になっていたのだ。
「返事、なかなか来ないね……住所を間違えて送っちゃったのかな」
お母さんはそう言うが、少年はことさら丁寧に自分の住所を書いて送ったのだ、そんなことはあり得なかった。
もう、おれなんて忘れられちゃったのかな。あんなに毎日サッカーやったのに。時々は宿題だって見せてやったのに。もう、おれ抜きでパス回せる様になっちゃったのかな。おれのあだ名を他の子に付けたりしてるのかな。おれは忘れてないのに……。
新しい友だちと過ごしていても、前の学校の友だちのことを思い出すことがあった。どちらがどうという訳ではなく、どちらもとても大切なのだった。
だから、冬の気配が鼻につんと香った秋の朝、郵便受けに手紙を見つけたときには心が躍った。着替えるより早く封を開ける少年に、お母さんが声を掛けた。
「あら、お返事来たの。何て?」
「ずっと病気してたって。でも治ったから、ようやく返事を書けるって」
答えながら、少年は目元を拭った。返事には、早く会いたいと書こう、と思った。
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