ルドベキア
いい加減、薄給な上にあらゆるハラスメントが横行する、激務のブラック職場から抜け出したい。そう思って僅かな休憩時間に転職サイトを巡っていると、どうにも気になる求人を見つけてしまった。
「求む……正義の味方……?」
弁護士事務所とかそういうのだろうか。最近は若者向けにキャッチーな路線なのかな、などと思いながらクリックすると、でかでかと表示された写真に度肝を抜かれた。そこには、日曜の朝早くにテレビで放送されるような、特撮ヒーローのコスプレとしか見えない姿の人たちが写っていた。
週末、どうしても気になって、その会社へ見学に出かけた。オフィスビルの地階の一角、小ぢんまりとした事務所に通されて、地味な中年男性である人事部長との面談が始まった。
「サイトに載っていた求人を拝見したんですが……その、正義の味方、とは……」
どう聞いていいものやら分からず、歯切れの悪くなった私の質問に、人事部長は控えめに笑った。
「正義の味方は正義の味方ですよ。苦しむ人からの依頼を受けて、この世の悪と日夜戦うのです。この後も一件、仕事が入っているので……是非、見学なさってください」
私は言われるままに彼らの仕事を見学し、その日のうちに転職を決めた。
やりがいのある仕事なら、例え休日が不意に潰れたり、しょっちゅう生傷が絶えなかったり、パトカーの接近に敏感になったりしても、全然平気なのだということが分かった。転職してからというもの、私の日々は明るく、輝いている。
「ほらほら逃げても無駄だよ!」
今日の「悪」は、若手社員にとんでもない量の仕事を押し付けた挙句、病院送りにしたブラック企業の社長だ。ヒーロースーツに身を包んだ私が振り回す鞭から必死で逃げ惑う姿は、元いた会社の上司を彷彿とさせる。
「お前らは一体、何なんだよ……!」
掠れた悲鳴のような声に、私は満面の笑みで答える。
「正義の味方サマさ」
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