グリーンネックレス

 二〇××年八月二十五日。

 あれは健やかに成長している。ひと月前に打った試験薬が今になって功を奏したらしく、死滅した細胞が瞬く間に蘇生していく。より正確を期すならば、死滅する瞬間に、若返っているのだ。だから事実、あれの細胞は昨日から一つも死んでいない。

 しかし、あれの出す音は聞くに耐えない。なまじ発声器官が残っているだけに、意味ありげな音を立てるのが鬱陶しい。あれの行動には最早、意味など無いと言うに。視覚も残ってはいないはずなのに、あれのむき出しの眼球が常に私を追っているように見えるのは気のせいだろうか。

 元の形が思い出せない。

 第三頭部にウロコ様の皮膚が形成されつつあるのを確認。多少、予想とは違うものの、経過は順調と言える。しかし眼球に注射針を刺した途端に暴れ、近くの器具を破損した。知能を少しでも残しておくべきだっただろうか。しかし、それは私が


 酷い音を立ててケージを壊していた。慌ててそこらのケースに入れて重しをして来たが、心もとない。まさかあれの力があそこまで強くなっているとは思わなかった。ウロコ様の皮膚は硬く、痛みに鈍感なようだ。あれの大半の意識が麻酔に屈していても、残るウロコ皮膚には効いていない。第三頭部も活動しているようだった。頭部から何かのぞ



 ああ、……う。

 あの子の……


 音声記録はここまでです。もう一度再生なさいますか?

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