サンタンカ
暑い。うだるような暑さ、どころではなく、これでは焼け死ぬかもしれない。家の中も暑いけれど、日差しが入らない分、外よりはマシだ。だから今日は家の中にいたかったのに、母さんめ。
「おや、神様へのお供えかい。えらいね」
近所のおばさんに頭を撫でられる。ぼくはもう小さい子どもじゃないってのに、恥ずかしい。余計暑くなったので早足で歩くと、手の中の赤い花が一緒に揺れる。神様にお供えするお花。色が強すぎて、まるで日差しをそのまま持っているような気がする。
「それ、お供えの花でしょう」
神様のお社に続く石段の、三段目に座った女の子が話しかけてきた。少し年上かもしれない。立ち上がると、ぼくよりも頭ひとつ分くらい背が高かった。銀色の髪なんて、珍しい。しかもとても長くて綺麗だ。
一瞬見とれてしまったけれど、知り合いでもないのに気安く話しかけられたのがなんだか気に食わなくて、無視してそのまま石段を上った。全部で百段ある石段は急で、太陽を目指して上っているみたいだ。
「赤い花って綺麗で好きだな。君が選んだの?」
一度無視されたくらいじゃめげないらしく、女の子はぼくの隣をついてくる。ああもう、うるさいなあ、とため息をつきながら「ぼくじゃない。お母さん」と答えてやると、女の子が微笑んだので、ぼくは思わず息をのんだ。
「お母さん、私のことをよく分かってるね。素敵な目を持ってるんだね」
「君のこと?」
ぼくはとうとう立ち止まった。言ってる意味が分からない。反対に、女の子は立ち止まらず、ぐんぐん上って行ってしまう。銀髪が、嘘みたいに輝く。お社の前で、女の子はくるっと回ってぼくを見下ろした。
「ほら、早く供えて」
なんなんだよ、と思いながら、一気に駆け上がって、その隣に立つ。お社に花を揃えて置くと、女の子が嬉しそうに手を叩いた音が聞こえた。
「ありがと。嬉しい」
この子、何なんだろう。
変なの、と思いながら見ると、そこにはもう誰もいなかった。ただ、見えない手に頭を撫でられたような、そんなくすぐったさがあった。
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