第9話 美少女と一緒に登校だ!
学校に到着し下駄箱で上履きに履き替えていると、案の定奇異の視線を向けられる。
仕方がないだろう。昨日あのような帰宅をしてしまったのだから。こんなに注目されて胡桃さんは大丈夫だろうか? 心配になって顔を覗き込んでみる。
「……ど、どうしたの?」
「いや、今日も可愛いなって。愛してるよ」
「……っ!? ば、ばか! いきなり何言ってるの!?」
「あぁ、そう言えばあんまり言い過ぎると軽薄になるんだっけ。でも困った。俺は胡桃さん以外を好きになったことがないから愛を伝える方法が言葉にするか肉体接触くらいしか思いつかないんだ……する?」
「するわけないけど!? っていうか、へ、へー、私以外、好きになったことないんだぁ」
「そうなんだ、胡桃さんと出会うまで好きとかよく分からなかったんだけど、出会ってからは寝ても覚めても胡桃さんって感じ。胡桃さんなしでは生きていけない身体になってしまった」
「……分かってはいたけど、結構重いね」
「何が?」
「愛が」
「酷くない!?」
「え、あ、ごめん。……まぁ、悪い気はしてないよ。嬉しいし、その打算的って思うかもしれないけど、こういう状況だからありがたい」
こういう状況、とは彼女を取り巻く現状のことだろう。いや、それよりも——
「……胡桃さんさ、昨日から薄々思っていたんだけど、デレ期来てない? 来てるよね? 大丈夫? 結婚する? いや、するんだけどさ」
「き、きき、来てないから! っていうか、しないから! 勝手に決めないで!」
顔を真っ赤にしてそっぽを向く胡桃さん。可愛い。写真に収めたい。一眼レフ買おうかな?
「お? おーっす、お二人さん!」
上履きに履き替え、教室へ向かおうとしていると、後ろから声を掛けられる。聞き覚えのある声に二人揃って振り返ると、そこには爽やかイケメンにして友人の桐島君が手を振っていた。
「おはよう、桐島くん」
「お、おはよう、桐島くん」
胡桃さんが肩を震わせて一歩俺に近づく。嬉しいけど、桐島くんは悪い人じゃないから少し申し訳ない。だけど、桐島くん本人は特に気にした様子を見せずに口元に弧を描いた。
「おはよーさん。つーか、二人とも朝からいちゃいちゃお熱いねぇ」
「! わかるかい!? いやぁ、さすがは親友の桐島くん!」
「ど、どこをどう見たらそうなるの!? してない! してないから! いちゃいちゃなんてしてないんだから!」
「と、古賀はそう言ってるけど。きっちーくん的にはどうなんよ」
「そりゃあいちゃいちゃしてると言って過言ではないね! 一緒に登下校して、いちゃいちゃべたべた」
「た、確かに登下校はその通りだけど……いちゃいちゃもべたべたもしてない! というか言い方が気持ち悪い!」
「気持ち悪くないよ!?」
「いや、俺もお前の言い方は全体的に気持ち悪いと思うぞ」
「桐島くんまで!? そんな……。さ、参考までにどこが気持ち悪いか聞いても?」
尋ねると、胡桃さんは迷うことなく答える。
「さっきの発言だと『いちゃいちゃ』はいいけど『べたべた』が気持ち悪い」
「だって本当のことじゃん。べたべたしたじゃん!」
「ちょっ、まっ、大声でそんなこと言わないで!」
顔を真っ赤にしてぽこぽこと叩いてくる胡桃さん。全然痛くないし、むしろその可愛さのあまり体力が回復している気さえする。
「……おいおい、マジかよ。お前らそこまで進んでたのかよ」
「ああ、愛し合っているからな」
「合ってないから! 一方的だから!」
わーきゃー言い争っていると、ホームルーム五分前を知らせる予鈴が鳴った。それを聞いてすぐに動いたのは桐島くん。
「っと、急がねーとな。あっ、そうだ。ほれきっちーくん。人質解放! んじゃ、俺は先行くから」
「わー、鞄ちゃん! 無事でよかったよう!」
喜んでいると、桐島くんは駆け足で階段を上って教室へと向かっていった。俺は渡された鞄を肩に担いで、胡桃さんに視線を向ける。すると彼女はどこか羨ましげな眼で俺達を見ていた。
「……胡桃さん?」
「……仲、いいんだね」
俺はその言葉を否定も肯定もしない。胡桃さんには同性の友達がいない。仕事は休止中であり、学校では虐められているから。でも俺は、何もしないなんてことは出来なくて、胡桃さんの手を取った。
「ここで黙るのは俺らしくないから、思ったことを言うね」
「……なに?」
「俺は胡桃さんが好きだ。だから、俺は胡桃さんの友達にはなれない。桐島くんはいい奴だけど、男だから胡桃さんが望んでいる関係にはなれない」
「……そうだね」
顔に影を落とし、少し声を震わせる胡桃さん。
そんな彼女に、俺は告げる。
「だから妹を紹介しよう」
「……うん……うん? 良い話しようとしてたのに、何か変な方向に行ってない?」
「行っていないと思うよ?」
「いや、いやいや! 行ってるから! 予想の斜め上の返答が来て驚いてるんだけど!?」
「うちの妹、いい奴なんだ! 少しきついことを言うこともあるけど、それは優しさの裏返し。気遣いが出来て、気配りが出来て、そして何より俺の家族! なーに、いずれ胡桃さんの
「な、何でいつも結婚前提で話を進めるの!?」
「はははっ、照れなくてもいいじゃないか!」
「照れてるわけじゃないけど!?」
「という訳で近い内にうちにおいで。妹だけではなく両親も紹介するよ!」
「まだ付き合ってもないのに!?」
「いずれ結婚するのだから早いか遅いかの違いだけだよ。もーまんたいっ! 大丈夫、みんな優しいから! 姑に苦労することも無いから! だから安心して!」
「……っ、はぁ……もう、ほんと……途中までは真剣な話だと思った私が馬鹿だった」
「? 今も胡桃さんの幸せに関わる真剣な話だけど?」
淡々と告げると、彼女はジトッとした目で俺を睨んでくる。
「…………ほんっと、ほんっとあんたのそういう所、ずるい」
「ずるいってどういう——」
俺が言いかけた所で、キーンコーンカーンコーンとホームルームを告げるチャイムが鳴った。しまった、遅刻だ。うちの学校ではホームルームの際に教室に居なければ例え登校していたとしても遅刻扱いになる。
話も切り上げてそろそろ行こうか、と胡桃さんを見ると、彼女は大きくため息を吐いた。
「はぁ」
「最近ため息多いね」
「誰のせいだと思ってるのよ。……ま、まぁ、楽しいからいいけど」
ぼそぼそと言葉尻を小さくする胡桃さん。
「ごめん、なんて言った?」
「なんでもないっ」
「楽しんでもらえたなら嬉しいよ」
「聞こえてるじゃん! ってか、あーもう! さっさと教室行くよ!」
「うん、このまま手を繋いで教室に入ろうね」
「……ずっと繋いだままだった!? あっぶなぁ!」
ビシッと手をはじかれた。悲しい。でも胡桃さんの表情に笑顔が戻った。嬉しい。俺は両極端な感情を抱きながら、先を進む胡桃さんの背を追って教室へと向かった。
――――
いつもたくさんの感想ありがとうございます。とてもに励みになっております。
ですが、最近返信の作業が追いつかず、また執筆に時間を割きたいと思い、返信は一時停止させて頂きたく思います。誠に勝手で申し訳ありません。
しかし、一つ一つ大切に読んでおりますので、これからも応援いただけると幸いです!
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