第22羽 小鳥、メガネをかける
テスト勉強をサボってゲームしていたことがバレたロクは、小鳥にリビングに連行され、そこで勉強を監視されることとなった。
まるで家庭教師だ。しかし監視している方が後輩で、されている方が先輩だという事実を、ロク自身とても情けなく感じてしまう。
だがそれは今はいい。ロクには目下、気になっていることがあった。
「なあ、小鳥遊」
「はい」
「それ、なんだ?」
「……伊達メガネです」
そう、小鳥がメガネをしているのである。
なにせ伊達メガネをかけてから、小鳥は気恥ずかしそうに顔を逸らして目を一切合わせてくれなかった。頬も、メガネほどではないが赤みがかっている。
「いや、伊達メガネってことは分かるんだが……どうして?」
「先輩のお父様が、おっしゃってたんです」
「?」
「もし先輩のだらしない部分を正す時が来たら、メガネをかけておけと。その方が捗るはずだからと。理由は教えていただけませんでしたが」
「……それって、一昨日の通話の時か?」
「そうです」
小鳥も交えて通話した時のことを振り返る。ロクは一度、小鳥に席を外してもらって両親と三人で話したが、実はその後、今度は逆にロクが席を外して、小鳥が両親と三人で話す機会があった。
その時どんなことを話したのか欠片も聞いていないが、そのうちの一つがどうやらこの伊達メガネに関してらしい。あまりにもくだらない内容である。
しかしロクは冷や汗を流した。
(まさか、な)
「あ。そういえば、お父様が先輩に伝えておけとおっしゃってたことが一つあります」
「なんだ?」
「どういう意味なのか分からないのですが……『エデンの園には俺も行きたいぞ』とのことです」
「エデンの……あ」
(ああああああああああああああ)
ロクは頭を抱えて、心の中でかつてない悲鳴をあげた。
それは遡ること中学二年生の時。まだ両親が家にいた頃、ロクは思春期に突入した。
コンビニの成人向け雑誌コーナー。そこに置かれた雑誌の表紙をチラリと見て、中身を妄想する日々。
ある日、表紙に赤メガネをかけた若い女性がのっていた。それがロクの何かに火をつけた。
すぐさま家に帰って、自分に与えられていたパソコンで検索をかけてしまう。
『女性 赤メガネ エッチ』
ロクは決して悪くない。それはもう男の性だ。そうしてヒットした画像の中から、気に入ったものだけ(特に家庭教師系)を保存し……
その保存場所が、デスクトップに新規作成した『エデンの園』という名前のフォルダなのである。
つまり、
(ああああああああああああああ)
父にはバレていたらしい。
「先輩、どうしたんですか? 『エデンの園』に何か心当たりでも……」
「ないないないない」
ぶんぶんと首を振る。小鳥にだけはバレる訳にいかなかった。中学生の頃に集めていたあの画像たちは、フォルダごと消去することを内心誓う。
というか『エデンの園』というフォルダ名がもうキツい。中学生極まりない。
「…………」
父にバレていたという事実に、かなりのショックを受けたロク。その表情はずんと沈んでいた。すると、それを見た小鳥が何か勘違いしたらしい。
「……やっぱり、似合いませんか?」
「え?」
そんなことを言い出す。
「メガネです。やっぱり外しますね」
「待ってくれ!」
慌ててロクは引き留めた。
「似合ってるから、すごく」
「え?」
「……似合ってる」
「……そうですか」
しかしあまり女性を褒めたことがないロクは、途中で自分がかなり直接的に褒めているという事実に気付いてしまい、照れ臭くなってしまう。結果、二度目の「似合ってる」は小さな声になってしまった。小鳥もまた、照れたように小さな声で言葉を返す。
「……さあ、やりましょう。そろそろテスト勉強始めないと」
「そ、そうだな」
そこでようやく教科書が開かれた。
「ちなみに、そのメガネはどこにあったんだ?」
「私が使わせていただいてる寝室の、棚の中です」
(親父……)
どうやら父も、同じ趣味を持っていたようだった。親子は似るものである。
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