19話 ※???視点

「――人の穢れとは、いったいなんなのだろうな」


 そう尋ねたのは、思えば『彼』の方からだった。


「どうして人は、穢れなどを抱くのだろうか」

「生まれながらに醜さを抱いているからでありましょう」


 彼の信頼する弟は、これから粛清に向かう地上を見据えたまま、冷淡な口調で答えた。

 穢れにも、人というものにも、なんら興味を持ってはいないらしい。


「生き物とは不完全なもの。永遠の命なく、争わなくては生きていけない。もとより失敗作なのです」


 弟の言う通りだ。

 人も地上の生き物もすべては、神になり損ねた失敗作。

 有限の命を散らし、消えゆくだけのそれらを哀れみ、母は地上を作り出してそこに住まわせたのである。


 生きるものはみな、死ぬものと同義である。

 死なないためには他者を押しのけ、喰らい続けなければならない。

 生物とは生まれながらに罪であり、醜悪な存在であった。


 穢れとは、その中でも飛びぬけて恨み深い感情の表れである。

 もとより醜悪な獣たちの、より邪悪な心の発露である。


 その事実を、彼は否定しない。

 実際に、穢れの少ない人間ほど心が清く、穢れが大きいほど他人に害をなす邪悪な存在だった。


 だけど、それならどうして――――。

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