~46~ 旅立ちの報告
『もしかして邪魔しちゃった?』
「え?」
いつもの気遣いをみせた優月の言葉に、つい声が裏返った。過剰な反応をしてしまったのは、ついさっきエクトルと恋人関係になったからだろうか?
取り敢えず『大丈夫だよ』と微笑み、羽琉は優月を部屋に招き入れた。
『はるくん。もう元気になった?』
羽琉が座っていた丸椅子に腰掛けながら心配気に優月が訊ねる。
午前中も聞かれたのだが、羽琉が沈んた表情をしていたのがずっと気になっていたようだ。
『ごめんね。本当にもう大丈夫だよ』
『本当?』
『うん。本当』
にっこりと答える羽琉に、優月もやっと笑顔を見せる。
『明日はまた一緒に外出しようね』
続けてそう言うと、途端に真顔になった優月は羽琉を凝視した。
どうしたのかと不思議そうに小首を傾げる羽琉に、優月は気まずそうに視線を逸らす。だがすぐに羽琉に視線を戻した。
『はるくん。僕、明日から外出できないんだ』
突然の告白に驚いた羽琉は『どうして?』と咄嗟に聞き返す。
『はるくんにはもう少し早く話せば良かったんだけど……』
そう言って今度は優月が申し訳なさそうに表情を歪めた。
『僕ね、来週、叔母さんの家に行くことになったの』
『……え?』
『すごく優しい人たちなんだ。昔すごく良くしてくれたの』
そうやって昔を懐かしむ穏やかな表情から、優月がどれだけ叔母夫婦のことを慕っていたかが分かる。互いに望んでこの結果に至ったのなら、とても喜ばしいことだと羽琉は思った。
『優月くんは、叔母さんたちが好きなんだね』
微笑む羽琉の問い掛けに、優月は『うん』と勢いよく肯いた。
『うちにおいでって言ってくれたことがすごく嬉しい』
本当に幸せそうな優月の笑顔に、羽琉もつられるように笑う。
優月のことを大切に思ってくれている人たちの元に引き取られるなら、優月が辛く悲しい涙を流すことはないだろう。自分よりも他人のことを思いやれる優しい優月には、これから先ずっと笑顔で過ごして欲しい。楽しいことをたくさん見つけ、将来の夢を見つけ、未来に希望を持って幸せになって欲しい。
そう心底願う羽琉は、優月の新たな旅立ちを嬉しく思った。
『そっか。優月くんとお別れするのは淋しいけど、二度と会えないわけじゃないしね。優月くんが慕っている人たちのところに行けるのは僕も嬉しいよ』
『……ありがとう。はるくん』
少し涙ぐむ優月の肩を、羽琉が抱くように引き寄せる。
『あと少しだけだけど、仲良くしてね』
羽琉の肩に頭を乗せた体勢で伝えてきた優月の指に、『あと少しだけど、ずっと仲良くしてね』と羽琉は答えた。
その瞬間、堪え切れずにいた涙の粒が優月の頬を我先にと伝い落ちていき、羽琉の肩を涙で濡らした。
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