~21~ Like⇔Love
優月の熱は午前中のうちに下がったようだ。
外出から帰ってきた羽琉に笹原が教えてくれた。
「明日は一緒に外出できるわね」
そう言った笹原に、羽琉は明日からの外出のことを相談することにした。
優月と1時間外出した後、再度外出しても良いか、と。
「午前の間なら外出は大丈夫よ。その時はまた外出届を書いてもらうけど」
快諾してくれたことにホッと安堵する。
笹原的には、優月と一緒だとスケッチに集中出来ないだろうと推察しての許可だったようだ。
しかし羽琉の目的は違う。笹原にも伝えた方が良いのかもしれないが、エクトルとの関係性が確立していない今の状態では、下手に告げることが出来なかった。
自室に戻った羽琉はオーバーテーブルの上にバッグを置くと、窓際に置いてある丸椅子に腰掛けた。
考える時間はもらった。期限が決まっているのであまり時間を無駄にしたくない羽琉は、これまでのことを頭の中で整理することにした。
声を掛けられること自体は特に不快に思うことはない。それは誰に対してもなのだが、そこから会話を発展させられると羽琉の苦手意識が途端に発動する。長時間になるとなおさらなのだが、半年前のエクトルの場合、長時間に加え、羽琉の心の踏み込んで欲しくないところにまで初対面で踏み込もうとしてきた。そのことに憤りを覚え、当初不快感を抱いたことは事実だ。
しかしエクトルは羽琉の拒絶に対して理解を示し、素直に謝罪してくれた。日本人とは違う価値観を持っていながら羽琉のことを慮る態度に、自然と不快感も消え失せた。その後も羽琉に対して真摯な姿勢を見せるエクトルに、人を思いやることの出来る人なのかもしれないと羽琉は思った。性格も多分嫌いではないし、自分の考えに共感してもらえるなら相性も合うのかもしれない。
「でも、恋人って……」
今まで誰かと付き合ったことがない羽琉には、他人事のように聞こえてしまう。学生の頃はそれなりに可愛いと思う子もいたが、告白して付き合いたいと思うまでの気持ちを抱くことはなかった。自分も本気で恋人を作ろうと思っていなかったのかもしれない。告白しなかったことを後悔することもなかったので結局はその程度の想いしかなかったのだろう。
「友達、だったら、優月くんみたいな存在になるってことかな……」
そう思ったが、確かエクトルは友達は嫌だと言った。LoveからLikeには出来ないと。
では羽琉は?
「……」
接していて不快感もなく、エクトルの人柄も嫌いではないとすると、今抱いている気持ちはLikeになるかもしれない。それをLoveに出来るのか――?
「Love……あ、い。愛……」
呟いた瞬間、苦痛に顔を顰める。その言葉は羽琉の胸を強く締め付けた。
一番聴きたくない言葉。
成瀬に言われて以来、耳にすることがなかった言葉だ。その影響か、『愛』という言葉自体が羽琉には穢れて聴こえる。
だがエクトルから発せられた『Love』の言葉に、羽琉は今のような苦痛を感じなかった。英語だったからかもしれないが意味は一緒だ。
エクトルが恋人としての交際を望んでいるのなら、羽琉が導き出さないといけない答えは、今のLikeの気持ちをLoveに出来るのかどうかということになる。だがその答えを出すには、今はまだエクトルのことを知らなさ過ぎた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます