83日目 『ある日、森の中』
ある日、わたしは森の中を歩いている。
その道中で、わたしは落とし物を見つける。
それは片方のイヤリングで、白い貝殻を模したデザインをしている。
わたしはそれを拾って、持ち主が近くにいないか探してみる。
しばらく近辺を渉猟していると、ひとりの女性の姿を見つける。
何かを探しているような素振りで、周囲を見回している。
わたしはその女性の耳元に視線を向ける。
右の耳にはなにも付いていない。
左に耳には、白い貝殻を模したイヤリングが取り付けられている。
わたしはその女性が落とし主に違いないと思い、声をかける。
――すいません、ちょっとよろしいですか?
女性がこちらに目を向ける。
すると、その女性は大きく目を見開き、一目散にわたしから逃げるように走り去っていく。
突然のことに、わたしは呆気にとられる。
呆気にとられている内に、女性の姿は遠くに消えてしまう。
何だったのだろう? とわたしは思う。
まるで、危険な猛獣か何かを見たときのような反応だった。
わたしは考える。
――もしかして自分で気づいていないだけで、わたしは猛獣の一種だったのだろうか?
そこで、誰かがわたしの肩をポンと叩く。
振り向くと、そこには一匹の熊が立っている。
――そんなに気にするなよ。ああいうこともあるさ。
熊はそう言ってわたしを慰める。
わたしは思う。
――熊が慰めてくるということは、もしかしてわたしは熊だったのだろうか?
熊はわたしに付いてくるように顎の動きで指示しながらどこかに歩き出す。
――ウチまで寄ってけよ。一杯奢るぜ。
わたしは熊の後をついて歩いていく。
わたしは思う。
――熊が一杯奢ってくれるということは、やはりわたしは熊だったのだろうか?
そんなことを考えている内に、わたしはどこかの洞穴に辿り着く。
――適当にそのへんに座ってくれ。
わたしは熊の言うことに従ってそのへんに腰掛ける。
熊がわたしに、蜜が滴っている蜂の巣を渡してくる。
わたしはそれに口を付けて中の蜂蜜を啜る。
心地よい甘さが口中いっぱいに広がる。
――やっぱこれだよな。
熊の言葉にわたしは首肯する。
わたしは思う。
――蜂蜜がこんなに美味に感じるということは、わたしが熊だからなのだろうか?
熊のほうも蜂の巣にから蜜を啜りながらわたしに話しかけてくる。
――そろそろ冬眠に備えて食いだめしとかなきゃな。
わたしは、そうですね、と答える。
わたしは冬眠に備えるにはどの程度体重を増やす必要があるのかについて考え始める。
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