73日目 『梟は語らない』
ある夜。
わたしがふと窓の外を見ると、梟がこちらを覗き込んでいる。
見開かれた2つの大きな目。
そこから放たれる視線が、じっとわたしに向けられる。
その眼光に、わたしは物言わぬ圧力を感じる。
多くの文化圏で、知恵の象徴として捉えられているその眼光。
その賢しき者の眼光が、わたしの愚昧さを糾弾しているのではないかと、そのように思えてくる。
わたしは、手にしていた牛乳パックに改めて目を向ける。
賞味期限が、既に3日を過ぎている。
飲もうと思っていた。
つい、先程まで。
3日くらいなら大丈夫。
そう考えていた。
だが、梟の眼を見ていると、それがわたしの愚かな考えを糾弾しているように感じられ、いたたまれない気持ちが生まれる。
わたしは牛乳を処分する。
梟は何も言わない。
◆◇◆
ある夜。
わたしがふと窓の外を見ると、梟がこちらを覗き込んでいる。
見開かれた2つの大きな目。
そこから放たれる視線が、じっとわたしに向けられる。
その眼光に、わたしは物言わぬ圧力を感じる。
わたしは手にしていたゴミ袋に改めて目を向ける。
燃えるゴミの日は、明日だ。
今は、前日の夜。
本来ならば、まだゴミを出していい時間ではない。
だが、わたしは朝が弱い。
明日、起床して満足に動ける時間にはもう収集車が通過している可能性がある。
今のうちに出してしまおう。
そう思っていた。
つい先程まで。
前日の夜なら別にいいだろう。
そう考えていた。
だが、梟の眼を見ていると、それがわたしの愚かな考えを糾弾しているように感じられ、いたたまれない気持ちが生まれる。
わたしはゴミ袋をカゴの中に戻す。
梟は何も言わない。
◆◇◆
ある日。
わたしが物置を整理していると、奥から古びたガローテが出てくる。
針金は既に錆びついている。
わたしはその取っ手を両手で握りしめる。
懐かしい感触。
様々な過去がわたしの脳裏に蘇る。
そんな中で、わたしの中にふと、このような考えが生まれる。
――この針金を、自分の首に巻き付けて、思い切り引っ張ってみたら、どうなるだろう?
だが、実行に移す直前で、わたしは背後に視線を感じる。
梟がこちらを見ている。
見開かれた2つの大きな目。
そこから放たれる視線が、じっとわたしに向けられる。
わたしは、直前まで自分の頭の中に浮かんでいた考えを振り払う。
わたしはガローテを物置の隅に仕舞い込んで、片付けを済ませる。
その間もずっと、梟はじっとこちらを覗き込んでいる。
何も言わずに。
◆◇◆
ある日。
わたしはたまたま立ち寄った図書館で、鳥獣の図鑑を見つける。
わたしはそれを手にとって、閲覧席に腰掛ける。
わたしの家の庭に、少し前から居着いている、一匹の梟。
あれが何という種類の梟なのか、調べてみようと思い立つ。
もし好物などがあるならば、ご馳走するのも悪くない。
そう考えてページを手繰るが、一向に該当種が見つからない。
わたしは首を傾げる。
そんなに珍しい種なのだろうか。
わたしの家の庭に居着いているあの梟。
鉤爪の生えた両腕を携え、二本の脚で直立する、あの梟は。
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