第七話 カイルの独白⑦
俺の新たな考えを伝えたら、話を通すから少しだけ時間がほしい、とクロムから言われた。その声に怒りが含まれているのがわかったが、気付かぬふりをした。
怒りの原因はわかっていたんだ。
俺の口から出てくる言葉が、クロムの決意を踏みにじるものだったから。
クロムはいまだに、俺の父さんへの忠誠を守っている。
瀕死のところを助けてくれた礼として、クロムは父さんに忠誠の魔法を使った。
そんなクロムを見つけたのは俺だからと、カイルが無茶ばかりするから見守ってほしい、と告げた父さんの願いを聞き届けてくれている。
忠誠の魔法は、主が亡くなれば消えてしまうはずなのに。
だから、俺自身を囮にする事が許せないんだろう。
そして……、俺自身が願いを叶えた後の行動も、クロムはきっと気付いている。
だからみんなの命が失われたあの日、クロムは俺だけが取り残されたこの世界で生き続けられるように、『目的を与えてくれた』んだ。
ここを襲撃した奴らを、そのままにしていいのか、と。
クロムは出会った頃のように深傷を負いながら、それでも俺に今は生きるよう、諭してくれた。
だから、俺は今、こうして生き続けている。
だから、自分の命の使い方は、わかっている。
だから、この目的が達成されれば、もう生きる事を続けなくていい。
だからたとえ、父さんやクロムよりも強い相手だろうと、俺は負けるわけにはいかない。
わずかな間でも、生きる事に希望を与えてくれたハルカの為にも、命を懸けて。
それ以上は、何も望まない。
生き残ってしまった俺は、これ以上、何も望んではいけない。
自分の幸せを望む事は、消えてしまったみんなが与えられたであろう幸運を消費する行為のように思えて、罪悪感だけが募っていく。
だから早く、全てを終わらせたい。
そしてこの決心だけは揺らぐ事がないように、今でも、何度も、自分に言い聞かせている。
そうでもしないと僅かな願いが、俺の未来に希望を垣間見せてくるんだ。
その希望に縋れば、俺の心はきっと弱さに支配され、仇を討つ事が出来なくなるだろうから。
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