第五話 カイルの独白⑤

 ハルカが眠ったのを確認して、俺は静かにテラスへと向かった。

 クロムといつものやり取りを始める為に。


 ハルカは驚くほど無防備に、朝まで熟睡する日々を送っていた。本当に平和な世界で過ごしてきたのだなと、その姿からいつも想像していた。


 だから油断した。


 魔法探しの最終日で疲れ切っていたハルカはいつにも増して、深い眠りについてるように思えた。

 普段なら、探知の魔法でハルカが起きないかを探りながらクロムと通信していたのを怠った、俺の失態だった。

 けれど、運良くハルカに会話を聞かれる事はなかった。


『あまり入れ込み過ぎないようにね。所詮、餌として使う人間なんだから。って、カイルにはこんな事、言う必要はないかな?』


 このクロム言葉を聞いて、怒りが湧いた。

 理由はわかり切っているからこそ、決断する時なんだと思ったんだ。


 そして、皆の命が消えたあの日を強く思い浮かべた。

 自分の願いが、変わってしまわないように。

 ハルカを餌として使い捨てる事を、迷わないように。


 その瞬間、ハルカが現れて俺は思わずその想いのままに見つめてしまった。

 けれど、俺を支配していた感情は、ハルカの姿を目に捉えると、消えてしまった。


 クロムはきっと、これを危惧して忠告してきたのだろう。


 だから俺はこの瞬間から、ハルカを利用する別の方法を考え始めたんだ。


 今まで計画していた方法は、俺自身が実行できないと自覚してしまったから。

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