第101話 全てを視る占い師
緊迫した表情でプレセリス様の占いを阻止するように怒鳴ったカイルは、こちらに詰め寄ろうとした瞬間、ユーゴさんに止められていた。
「あなた様には聞いておりませぬ。わたくしはこちらの可愛らしい黒の魔法使いの方にお尋ねしているの」
そう言って、プレセリス様は体の向きを変えると、今度は腕を絡めてきた。
「あ、あの、どうしても2人っきりじゃないとだめなんですか?」
「あなた様にだけ、お伝えしないといけない事があるのです」
自分より少しだけ背の高いプレセリス様の瞳を、見上げるように見つめた。
そして、その瞳の優しさと言葉、どちらからもとても真剣な想いを感じられたハルカは、決断した。
「わかりました。私も予約をせずに視ていただけるなんて、助かります」
「ハルカ……、まさか」
カイルが不安げな表情でこちらを見ていた。
「カイル、きっと大丈夫。プレセリス様、こちらにも条件があります」
「どうぞ、おっしゃって」
「いつでもカイルと話せるように、通信石は出させていただきます」
「えぇ、好きになさって」
話がまとまりかけた時、カイルがなおも引き止めてきた。
「危険だ。何をされるか、わからないんだぞ?」
「そんなに怯えなくとも、あなた様の願いは話しませぬので、どうぞご安心下さい」
怯える?
カイルの願いは、何なんだろう?
そう思いながら、カイルをよく見てみると、少しだけ青白い顔をしている事に気が付いた。
「カイル、大丈夫?」
「俺の事はいいんだ。ハルカ、本当に、視てもらうのか?」
カイルからしっかりとした言葉で尋ねられ、ハルカは自分の考えを伝えた。
「お互い出来る事やる。今の私に出来る事は、プレセリス様に占ってもらう事。それが私だけの魔法を見つける為の最短手段だよ」
そう言い切った後、更に想いを乗せて、カイルに届くように言葉を紡いだ。
「それに、何があってもカイルは守ってくれるんでしょ?」
この言葉で、カイルは半ば無理やり納得したようだった。
「……当たり前だ。ハルカに何かあれば、すぐに助けに行く。手加減は、しない」
最後の言葉はプレセリス様とユーゴさんに向けた発言だった。
「わたくしはまだ死にたくありませぬので、ご安心を。何か粗相があれば、ユーゴへその剣をお向け下さい」
「プレセリス様……、それはあんまりです」
こうして、険しい表情のカイルと悲壮感漂う表情のユーゴさんに見送れながら、プレセリス様が入ってきた扉の向こう側へと
薄暗い部屋はまるで宇宙にいるような、不思議な空間のように感じた。
そして、壁に埋め込まれている石が柔らかい光を発している。明かりはそれのみのようだった。
「足元にお気を付けて」
「はい……」
腕を組みながらゆっくりと案内をされ、ハルカは椅子に座らされた。
「こんなに暗い中で、視えるんですか?」
輪郭すらもはっきり見えない薄暗さだったのでそう尋ねたが、プレセリス様は対面の椅子に座りながら小さく笑った。
「暗い方がよく視えるのです。普段はもう少し明かりがあるのだけれど、今日は特別」
そして、プレセリス様はお互いの膝がつくぐらい椅子を寄せてきた。
「ユーゴに説明を任せていたのだけれど、失敗でしたね。ですが、再度注意をさせていただきます。今からわたくしがあなた様の魂を視終わるまで、決して目を背けないで下さいませ。目を背けてしまうと、あなた様の魂がわたくしの中で迷子になりますの」
改めて説明をされたけれど、もっとわからなくなったような……。
その考えが顔に出ていたようで、プレセリス様は苦笑すると、通信石を取り出すように促してきた。
「これは体験しないとわからない事と思います。さぁ、通信石を取り出して……。そして、何を視てほしいかを強く心に描いて下さいませ」
「はい」
ハルカは短く返事をすると、収納石から通信石を取り出し、いつでもカイルが呼べるように握る。
そして強く強く、願いを描いた。
『私だけの魔法を見つけたい』
「準備はよろしいようですね。それでは今からあなた様の過去も未来も全てを視させていただきます」
『過去も未来も』って……!!
中断してもらおうとプレセリス様に声をかける為に目を合わせた瞬間、自分の中身が引き抜き取られるような感覚になり、身体が言う事を聞かなくなった。
とても長い時間、夢の中を彷徨っているような浮遊感に襲われたが、突然、重みが戻る。
きっと、カイルと同じように少しの時間だったんだろうけど、頭がくらくらする。
そう考えるハルカに、プレセリス様の囁くような声が届く。
「ご自分だけの魔法を見つけると、この部屋に入る前に言っておりましたね。それがはっきりと視えましたの」
魔法を視るだけなら、未来の事だから大丈夫。
大丈夫な、はず。
お願い。お願いだから、前の世界の事は視えていないで!
その願いも虚しく、ひと呼吸置いたプレセリス様から聞きたくない言葉を突きつけられる。
「異世界からの転生者、『アマサキハルカ』様の魔法が」
「————っ!!」
絶対に隠し通さねばいけない事が知られてしまい、ハルカは声にならない悲鳴を上げた。
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