第94話 はじまりの物語
深夜に目が覚めて寝ぼけていたからか、カイルの表情を見間違えた事に驚いて、ハルカは目が覚めてしまった。
「どうしよう、やっぱり眠れそうにないや」
「うーん……。それじゃ、お伽話でも聞くか?」
「お伽話?」
「童話もあるが、この世界に伝わる異世界の伝説の話、なんていうのはどうだ?」
窓辺の月を背負うカイルから魅力的な提案をされたせいか、その誘いに心惹かれた。
続いてカイルは、大まかにどんな話があるかを教えてくれた。
眩く輝く髪色の異世界の勇者達が、様々な種族と共に悪竜を倒す話。
魔物すら手懐けた精霊使いの話。
魔法は心で使うものだと人々に広めた大賢者の話。
そして、名もなき話。
「名もなき話?」
「これは俺の一族が、異世界の歴史を保持するきっかけになった出来事を元に作られた話なんだ。だから有名でもなんでもない、俺の一族だけが知っていたお伽話でもある」
「じゃあ、その話がいいな」
「いいのか? まぁ……、1番眠くなる話かもな。それじゃ、横になりながらでも聞いてくれ」
そう言われたので、ハルカは素直に横になった。
そしてカイルは自身の収納石から本を取り出すと、ハルカの枕元近くに腰掛けてきた。
「ど、どうしたの?」
「お伽話っていうものは、こうやって話すものだろ?」
そう言いながらカイルは本を開き、頭をゆっくりと撫でてきた。
あの本は、カイルがよく読んでいる紙製の本だ。
異世界の記録が、書いてあるのかな?
少しどきどきするけれど、なんだかとても懐かしい。
懐かしい?
ハルカは自分の中に芽生えた不思議な感情に戸惑った。
そして頭を撫でる手を止めるタイミングが完全になくなり、そのまま話を聞く事になった。
***
昔、あるところに、記憶を伝承する魔法を使える民がいました。
その民の女性の1人が、不思議な青年を見つけました。
「あなたは、どこの人?」
なぜそんな質問をしたかというと、その姿がこの世界の住人とは、違って見えたからでした。
「ここではない星の住人だった、と言ったら、君はどうする?」
すると青年は、とても驚くようなことを、言ってのけました。
「ふふっ。そんなことを言われても信じてしまうぐらい、あなたは不思議な人ね」
女性は笑ってそう言うと、その青年を自分が暮らす村へ、招き入れました。
しばらく青年は、妙なことを口走ったりしていましたが、違う星の住人だったのなら不思議ではない、と村の人々も受け入れていました。
そして月日は流れ、女性と青年は結ばれました。
幸せな日々を過ごす中、青年は女性を2人が最初に出会った場所へと誘いました。
「突然、どうしたの?」
「俺は自分だけの魔法を、今から使おうと思う」
いきなりそんな事を言う青年に、女性は大変驚いたようでしたが、続きを尋ねました。
「どんな魔法なの?」
「それは、今からのお楽しみ。使った魔法がお気に召さなかったら、解除するからちゃんと言ってくれ。それと、俺の魔法は1度しか使えない。だからお願いがあるんだ」
とても真面目な顔をした青年を見て、女性は頷くと、更に尋ねました。
「どんなお願い?」
すると青年は笑顔になり、こう言いました。
「君の記憶の魔法に残してほしいんだ」
こうして、青年の魔法は代々直系の血縁の者だけに記憶として引き継がれ、永遠の約束として残りました。
***
あれ……?
肝心の魔法は何だったんだろう……?
でも私は……、この話を……知っている、気がする……。
知っている……?
知っているわけ、ないのに…………。
カイルの手と声の心地良さに、ハルカは深い眠りへと誘われそうになっていた。
『本当に、使ってよかったの?』
『当たり前だ。だって俺は君と————』
そうだ……。
この魔法は…………。
お伽話の続きのような囁きが聴こえた気がしたが、睡魔に勝てずにハルカは意識を手放した。
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