第89話 祝福

 異世界の血が異端として扱われ、更には黒の魔法使いの大半が命を奪う事に長けている事実を知り、ハルカの心は酷く揺れていた。

 だけれど、カイルがそんな事実とは関係なく、ハルカの魔法は違うものだと信じ続ける、と言ってくれた事がたまらなく嬉しくて、再び前を向けた。


 そして、アルーシャさんから告げられたコルトの占い師の新しい情報に、ハルカは期待に胸を膨らませた。


「彼女は命運を視るのを得意としています。そういった事を生業としている黒の魔法使いの話を聞けば、何かしら得るものはあるはずです」


 アルーシャさんは続きを話し終わると、更に優しい微笑みを浮かべ、こちらを見つめてきた。


「沢山の大切なお話を……ありがとうございました。あの、アルーシャさんはその方とはお知り合いなのですか?」

「そうだ、俺も聞きたかった。やけに詳しそうだったよな?」


 ハルカに続いてカイルも疑問を投げかけた。


「知り合いという程でもありませんが、僕は占ってもらった事があるんです。そして今の妻と出会えました」


 まさかの恋愛話にハルカは驚きつつも、興味津々に質問をする。


「アルーシャさんと奥様の馴れ初め、なんですね! どんな事を言われたんですか?」


 アルーシャさんは少しだけ照れたようにはにかみながら、ゆっくりと話し始めた。


「自分で言うのもあれなんですが……、当時色々な女性に言い寄られて参っていたんです。ですが、家庭を持つ事に憧れはあったんですよ。そして悩みに悩んで占ってもらった結果——」


 どきどきしながら続きを待つハルカに、アルーシャさんらしい答えが返ってきた。


「『差し入れを食べれば、すぐに見つかる。食べた瞬間、あなたならわかるはず』と、言われたんです。そしてそれはすぐに現実になりました」


 やっぱり食べ物なんだな。


「やっぱり食べ物なんだな」


 ハルカは口には出さなかったが、カイルが同じ事を考えていたと知り、笑いを必死に押し殺した。


「やっぱりって、僕には重要な事だったんだよ? それにね、何故差し入れを食べてわかったかというと——」

「あっ、あれはなんですか!?」


 アルーシャさんには申し訳ないと思いつつも、ハルカは2人の後方から迫りくる大きな物体を発見して、慌てて言葉を遮った。

 その言葉に弾かれたようにカイルとアルーシャさんが後方を確認しながら武器を構えようとしたが、何かが確認できたようで2人ともその物体を驚きながら眺めていた。


「あれは……珍しいですね」

「あぁ。良いものが見れたな」


 2人の様子から危険なものではないとわかったが、それなら尚更正体が知りたくて、ハルカは再度尋ねた。


「あの、大きな生き物はなんですか?」


 そう質問している間にも、巨大な4つ目のフクロウがこちらに向かって羽ばたいていた。


「あれはグランアウルだ。魔物は魔物だが、『神魔』に該当する神聖な生き物だ。人に攻撃はしてこないから、国から保護対象として扱われている」


 カイルのその説明が終わる瞬間、そのグランアウルはハルカ達の頭上を力強く羽ばたきながら通り過ぎていった。


「旅の前にグランアウルを目にするとは……、ハルカさんの旅路は祝福されていますね」

「祝福、ですか?」


 アルーシャさんの言葉にハルカは首を傾げた。


「先程カイルが言った通り、神魔と呼ばれる魔物は人々に様々な祝福を与えてくれます。グランアウルは特に、旅路の安全やその先で見つかる幸運がある事を知らせてくれる存在、と言われているのですよ」


 魔物の中にもそんな違いがあるんだ、と思いながらハルカは遠ざかっていくグランアウルを眺めた。


 私も……、異端かもしれないけれど、自分の願いを信じてみよう。

 魔物の中の神魔みたいな存在にはなれなくても、こんな黒の魔法使いもいるんだ、って出会った人が認めてくれるような魔法を見つけられるって。

 カイルが信じていてくれる限り、私も自分を信じる。


 そう気持ちを固めたハルカは武器を腰回りの装飾品の姿に戻し、再度2人にお礼を言おうとした瞬間、アルーシャさんが何かに気付いたような顔をしていた。


「おや? ちょっと失礼するよ」


 そう言った後、アルーシャさんは鎧の腰回りにある装飾の1つに触れた。するとその青く輝く石の飾りから、手のひらぐらいの大きさの青バラのような宝石が出現した。


「アメリア、どうしたんだい?」


 そうその青バラに声をかけながら、アルーシャさんは少しだけハルカ達から離れた。


 あれがアルーシャさんの収納石と通信石なんだなぁ。それにしても、やっぱりカバンがこんなに小さいのは便利だよね。


 ハルカはアルーシャさんを見ながらそんな考えにふけっていたが、カイルから声をかけられ、我に返る。


「この後はハルカの通信石を買いに行くぞ。旅先ではぐれた時、連絡手段がないのは致命的だからな」

「1人で行動する事なんてないから平気だと思うんだけど……、いいの?」


 またもカイルにお金を出させてしまう事に少しだけ罪悪感を感じながらも、通信石自体に興味のあるハルカはおずおずと尋ねた。


「いいに決まってる。むしろ買わせてくれ」

「あ、ありがとう」


 思った以上に力強い返事が来て、ハルカは驚きつつも、思わず頷いていた。

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