第73話 私だけの日記に綴る想い

「少しでも魔法探しの参考になるといいんだけどね。ハルカちゃんも焦らなくていいから、ゆっくり自分を見つめてごらん? それじゃごゆっくり!」


 魔法を見つけた時の話を終え、ルチルさんは厨房へと消えていった。


 ルチルさんの話に聞き入ってしまってあまり料理を食べていなかった事を思い出し、はるかとカイルは冷めないうちにと食べ始めた。


「自分を見つめる……か」

「こうやって魔法を見つけた時の話を聞ける事も中々ないからな。きっとハルカの魔法を見つける手掛かりになるはずだ」


 そんな風にカイルからも助言を受けて、はるかは頷く。


「ありがとう。いろんな人の話を聞いて、その時思った事を大事にしておく」

「それがいい。そうするとやっぱりサリアの言っていた通り『日記』が活躍するな」

「そっか! 忘れないように書いておけるもんね」


 さっそく今日の事は書き留めておこう。

 まだこの世界の文字がわからないから、私の世界の文字になってしまうけれど……いつかこの世界の文字でもちゃんと書けるようになりたい。


 そう考え、今日も文字を書く為にはるかは料理を食べる手を進めていった。


 ***


「はぁ〜! お腹いっぱい!」

「やっぱりここの料理は美味いな……」


 そう言ってはるかとカイルは部屋の椅子にもたれてくつろいでいた。


 あの後、はるか達は料理をすぐに平らげてルチルさんに礼を言うと鉱浴の話をした。


「カイルもするのかい? それは嬉しいね! 今日はこの中から選んでくれるかい?」


 そう言われて見せてもらったカケラ達からはるかとカイルはそれぞれ選んで持ち帰った。


「このカケラがそんな風に水に溶けるのか。便利だな」

「本当に凄いから! びっくりしちゃうよ!」

「そこまで言われると気になるな。早速準備するか」


 そう言ってカイルは早速準備を始めてくれたのだが……なぜかはるかが先に入る事になった。


「えっ!? カイルから先に入りなよ!」

「いや、ハルカからでいい。ハルカが入っている間に文字の練習ができるように書き出しておく」

「えぇっ!? そこまでしてくれるの?」

「面倒見るって決めたからにはしっかりやるぞ。だから気にしないで入ってこい」


 そう言いながら柔らかく微笑むカイルにはるかは見送られた。



「うーん……やっぱり落ち着かない」


 残念ながら今朝と同じ深緑色のカケラはなかったので、薄桃色のカケラで鉱浴を堪能していた。


「朝も入ってるし、そろそろ上がろう!」


 そう言ってはるかは急いで身支度を整えた。


 

「もういいのか?」


 カイルは驚きつつも、書き出しなどは終えていたみたいで本を読んで待っていてくれたようだった。


「うん! 朝も入ってたしね。カイルもごゆっくり!」

「それじゃ行ってくるか。俺の記録石にハルカの名前と文字を一通り書いておいたから練習しててくれ」

「ありがとう!」


 そう言うとカイルはヒラヒラと手を振りながら浴室へ消えていった。


「よーし、やるぞー!」


 その言葉で自身に気合を入れて、はるかはただひたすらに文字を書き始めた。

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