第68話 精霊獣

 精霊獣を探しに行ける喜びで興奮しすぎたはるかが落ち着くのを待ってから、カイルは話を進めてくれた。


「それじゃ、よく見ておいてくれ」


 その言葉にはるかは頷く。


 それを合図にカイルは言葉を発した。


「召喚」


 その言葉を言い終えた瞬間、カイルの胸の辺りから何かが飛び出してきた。


 鳥のような顔と翼を持っていながら、体は逞しい大型の獣のような風貌の生き物が目の前に姿を現す。

 毛並みは白に近い柔らかな色の金色で、目は鋭くも優しい翡翠の色をしていた。


「小さめに召喚したつもりだったが、まだ大きいか。もう少し小さくなってくれ」


 そう言われて召喚された精霊獣はかなり小さくなりながらカイルに飛びついた。


「来てくれてありがとうな、セルヴァ。俺の仲間を紹介するぞ。ハルカっていうんだ」


 カイルはそう言うと、はるかが見えるようにセルヴァを抱き直した。


「私は、はるかっていうんだ。よろしくね、セルヴァ」


 セルヴァは何も反応する事なく、ただただはるかを見つめてきた。


「精霊獣は精霊使いか精霊獣同士でしか言葉が話せない。ただ言葉は理解してくれるし、行動も示してくれる。契約するとなんとなく思っている事もわかるしな。命を共にする相棒ってところだ」


 その言葉に応えるようにセルヴァはカイルの腕に頬擦りしていた。


 可愛い……。


 その仕草が愛らしくてはるかは心底羨ましくなった。


「契約するのにコルトの町に行かなきゃいけないんだよね?」

「そうだ。だから定期便が存在する。15歳の成人を迎えると大体の奴がコルトに行く。親の都合なんかでコルトに立ち寄って成人前に契約する奴もいるけどな」

「なるほどなぁ……」


 どんな精霊獣に会えるのか期待に胸を膨らませようとした時、はるかは思わぬ言葉を耳にした。


「自分の精霊獣がいない奴もいる。だからその時は……気にするなよ?」

「えっ!? いないって?」

「必要のない人間もいれば、もう少し年齢を重ねてから契約できる場合もある。あとは契約できる精霊獣の卵を見たらわかる。他の契約者を待っている精霊獣だったら拒否される」

「拒否!?」


 拒否なんてされたら立ち直れない!

 きっと先に言わなかったら私がその事実に絶望すると思って先に言ったんだろうけどさぁ……。


 そう思いながらも、既に絶望し始めたはるかの元にセルヴァがゆっくりと近づいた。


 小さな羽をパタパタさせながら小首を傾げて様子を見ている姿に、はるかの心は愛おしさが溢れた。


「心配して来てくれたの? ありがとう」


 セルヴァが来てくれた事によってはるかは笑顔になる。

 その事が嬉しかったようでセルヴァは、はるかの周りをぐるりとひと回りした。


「セルヴァは優しいね。少しだけ触ってもいい?」


 その言葉を聞いてセルヴァはいきなりはるかに飛び込んできた。


「かっ……可愛い!!!」

「セルヴァが懐くなんて珍しいな。ハルカは逆に精霊使いの素質があるのか?」

「精霊使い?」


 はるかはセルヴァをひたすら撫でながら質問する。


「通常契約できるのは1体なんだ。だけれど精霊使いは何体もの精霊獣と契約できる。ただし魔法は精霊使いの事に特化するから他の魔法があまり得意ではなくなるそうだ」

「そんな特徴もあるんだ!」


 新しい発見にはるかの心が躍る。


「まぁ何体も精霊獣がいたら必要な魔法は精霊獣が手助けしてくれるし、全く不便な事はないから安心しろ」

「何体もなんて……幸せすぎるね!」


 想像しようとしたが……先程の話もあるし、あまり期待しないようにしよう。

 そう思ったはるかだが、顔がにやけるのが自分でもわかった。


 そんなはるかにいまだ撫でられ続けているセルヴァは目を細めて体を預けていた。

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