第62話 氷の王子様
「ちょっと待て、ハルカ」
いざ、ギルドへ! と思いながら町中を進むはるかは急に呼び止められ、振り返った。
呼び止めたカイルは複雑な表情をしていた。
「どうしたの、カイル?」
「ハルカ……道、間違えてるぞ?」
「えっ!?」
「自信満々に歩いて行くから様子を見ていたが、こっちじゃない」
優しく手を引かれ、はるかは軌道修正される。
「あれ? 違った?」
「全然違うぞ。俺についてきてくれ……」
カイルの過保護がまた発動しそうな事に気付かず、はるかは首を捻った。
実は、はるかは無自覚の方向音痴だった。
多分、こっち! という謎の直感で迷いながらも何故か目的地にたどり着けるので本人は気付いていない。
そしてはるかが納得しないまま、ギルドに辿り着いた。
「あっちだと思ったんだけどなぁ」
「凄い遠回りになるんだぞ? とりあえず今はギルドに入ろう」
「そうだね。入ろうか」
悩ましげな表情のカイルに全く気付く事なく、はるかは扉を開けた。
これからの旅で1番注意しなきゃいけない事だな、とカイルの心に深く刻まれた出来事になったのは言うまでもない。
「それでは探し出した薬草をこちらへ」
受付のお姉さんに促され、腰周りを飾る装飾品から薬草を取り出す。
「お願いします」
「では、しばらくお待ち下さいね」
そう言うと受付のお姉さんは奥へ消えていった。
「加工って結構時間かかるの?」
「そこまでじゃないが、他にも順番待ちの仕事があるだろうし、それ次第じゃないか?」
「そっかぁ」
しばし暇を持て余したはるかは周りを見回した。
まばらだが他の冒険者もいる。
何かを待っているような普通の人に見える人もいる。
小さな子供までいるのはなんでだろう?
いろんな人がいるなぁ、と考えていた時、ギルドの入り口から入ってきた人物にはるかの目は釘付けになった。
端正な顔立ちに、柔らかな目元。
何故が憂いを帯びているように見える瞳。
身長も体格もほぼカイルと変わらないように見える青年は、体を薄青色の騎士の鎧のような装備で身を包んでいた。
しかしながらその1つ1つの所作がキラキラとしながらとても優雅に見える。
長めの前髪を軽く流し、サラリとしたショートヘアさえもキラキラとした輝きを放っていた。
そして1番目を引いたのはその髪の色だ。
深い青色のような、それでいて深い紫色のような不思議な色の髪の毛。
その不思議な髪色の青年がこちらに向かって柔らかく微笑んだ。
黒みがかった緑や赤のような髪色ばかり見ていたはるかはその鮮やかな色に驚きつつも、それ以上の衝撃を受けていた。
イケメンが微笑んでいる!
カイルも充分、イケメンの部類なのだが微笑んでいる青年の破壊力が凄い。
「昨日振りだね、カイル」
「アルーシャ、なんでギルドに来たんだ?」
この会話でこちらに向かって微笑んでいた理由がはっきりした。
うぅっ……心臓に悪い!
見た目もだが優しい声の響きにお伽話に出てくるような王子様を重ね合わせ、はるかはどきどきしていた。
でもアルーシャって……どこかで聞いたような……?
「まぁ……色々とね。こちらのお嬢さんが昨日言っていたカイルの贈り物のお相手かな?」
そう言って私にまで微笑みかけてくるアルーシャさんにはるかはビクリとしてしまう。
「は、初めまして。はるかと言います。よろしくお願い致します」
「ハルカ、大丈夫か?」
はるかは自分でも態度がおかしい事に気付いてはいたが、カイルにもそれが伝わったようだ。
「だ、大丈夫……だよ!」
「いや、変だぞ?」
「ははっ! この髪色で驚かせてしまったみたいだね」
アルーシャさんは前髪を軽く摘みながら笑った。
「いえ! とても綺麗な髪色で見惚れてしまって……」
「そんな風に褒めてもらえるのは光栄ですね」
そして改めてはるかに向き合い、アルーシャは自己紹介を始めた。
「僕はアルーシャ・ナイト。アルーシャと呼んで下さいね、ハルカさん。あと……昨日の花はカイルからの気持ちなので大切にしてあげて下さい」
「アルーシャ、余計な事は言わなくていい」
「口下手な君に代わって少し話しただけだよ」
あの花のお酒を教えてくれた人だったんだ!
通りで聞き覚えがある名前だと思った。
昨日は薄暗い酒場の中で気付けなかったけれど、まさかこんなにイケメンだったとは……。
そんな事を考えながら、目の前で語り合う青年達を眼福とばかりにはるかは見つめ続けていた。
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