第60話 今の私に出来る事

 先程の森を後にして、黒い城壁に囲まれた町・キニオスに戻る為にはるかとカイルはのんびりと会話を楽しみながら歩いていた。


「解体作業を見た事ないとか……ハルカは貴族なのか?」


 気持ちが持ち直したところではるかは正直に解体を見た事がなく、驚いたとカイルに伝えた。

 今後また具合が悪くなるかもしれないから伝えておこうと思ったまでだ。


「一般人だよ。私の周りも何かの情報で知っている人はいたと思うけど、実際に見た事がある人はごく僅かだと思う」

「不思議だな。まぁそういう事もあるんだな」


 お互いに違う世界の話だと思われないように少し濁しながら話を進める。


「そういえばもっと不思議なのはフェザーラパンは倒し切らないの?」


 あんなに増えていて怪我人も出ているのなら全部倒したりしないのかな?


 そんな考えからの質問だった。


「倒し切っても他の場所から移り住んでくる事もある。それに何より生態系が崩れる。そういった調和の為の討伐依頼も俺達の仕事だ」

「単純な話じゃないんだね」

「あまりに凶悪なのは倒し切るけどな」


 凶悪……。

 フェザーラパンに対して何も出来なかった私も……いつかちゃんと戦えるのだろうか?


 少し不安になったが、そんな事ばかり考えるのをやめた。


 今、考えるのは何が出来るか……だよね。


「私に出来る事……なんだろう?」


 はるかはまた無意識にそんな事を口にしたが、カイルは特に驚かなかったようですぐに返事を返してきた。


「今日出来た事を他の事を考えても出来るようにすればいい。ハルカは特に頭で考え過ぎなところがあるからな」

「出来た事、かぁ。それに考え過ぎるって……確かにそうかも。って今もそうだね」

「少しは自覚があったのか……」


 驚きつつも笑われてしまったが、カイルとの会話はやっぱり楽しい。

 そう思ってはるかもつられて笑った。


「それにしても、今日は全然疲れてないよ! なんでだろう?」


 昨日、文字を書いただけでも疲れていたのに不思議で仕方ない。

 その答えをカイルはすぐにくれた。


「それはハルカの得意分野の魔法だったからだな。文字は初めて書く文字で、慣れなくて魔力がかなり減ったから疲れたんだろ」

「得意不得意がそんな所にも影響するんだね」

「かなり違うぞ? 敢えて不得意な分野の魔法を普段から使っておくと魔力がゴッソリ減るから、魔力強化にもなる」


 ん?

 それは私にとって好都合じゃない!


 はるかは閃いた。

 毎日、文字を書けばいいじゃない!と。


「それなら私、毎日文字を書いてから寝る!」

「あぁ、それがいいな。文字を書く事が大幅な魔力強化に繋がるなんて、ハルカはつくづく運がいいな」


 これから自分が出来る事の方針をある程度固めた時に、キニオスの門がはるか達を出迎えた。

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