第53話 幸せの薬草探し
鳥達の声が楽しげにさえずる森の中で、はるかは魔法を使い続けていた。
少し時間は掛かっていたが、ひたすら真っ直ぐ前を見つめながら魔力を広げていく。
そして変化を感じ、はるかは喜びの声を上げた。
「あった!」
「凄いな! もう見つけたんだな。よく見たらハルカの魔力の色でほんのりと光っているはずだから探してみよう」
あの会話の後、ひたすら薬草のイメージと魔力を広げる事だけを考えていたら、肌が急にピリッとした。
そして何かが引っ掛かったように思えた。
確か左奥の方だったような……。
はるかがそう思いながらゆっくりと目的地に進むと……ほんのりと黒色を纏った葉っぱを見つけた。
「あった! あったよ、カイル!」
はるかは振り返りながら、ゆっくりと後に続いていたカイルに微笑みながら報告をする。
「やったな! ハルカはもしかしたら補助系の魔法が得意なのかもな」
そんなはるかにカイルも笑顔を見せながら魔法の助言をしてきた。
「補助系?」
「簡単に言うと、誰かを手助けする魔法ってとこだな」
「手助け……」
攻撃系の魔法を覚えなきゃいけないのかと思っていたはるかにとって、意外な答えだった。
「俺も補助系は得意だ。ただ回復だけは微々たるものだな……。まぁ回復は白の魔法使いの特権みたいなものだから仕方ないんだけどな……」
カイルは悔しそうにその事実を口にしながら見つけた薬草に手を伸ばした。
「白……光だから回復のイメージが強そうだもんね。それにしてもカイルって補助系なんだ。攻撃系が得意なのかと思ってた」
先程の冒険者ランクの話もあり、カイルはなんだか強そうなイメージだったのではるかはとても驚いた。
「ん? 補助系もうまく使えば攻撃に転じるぞ? 魔法で攻撃より自分で攻撃と思った結果、その魔法を見つけたってとこだな」
はるかの疑問に答えながらカイルは薬草を採るとこちらを向いた。
「なるほどね〜。自分がどうしたいかがわかると見つかるんだ!」
「何かきっかけがあったりするだろうからのんびり見つけたらいいさ……」
カイルのきっかけってなんだろう?
その事を聞こうとした瞬間、カイルがはるかの左手に収まっていた辞書をそっと取り、先程見つけた薬草を手渡してきた。
「おめでとう。これで晴れて冒険者の仲間入りだな」
「ありがとう」
「これは大切に収納しておけ。ギルドで提出したら冒険者の証として持ち運べるように加工するからな」
カイルからの説明に耳を傾けながら、はるかは手にした薬草を眺めていた。
すると心がほんのりと温かくなった気がした。
「この薬草……見てるとなんだか幸せな気分になる」
「だろ? その薬草の効果だ」
「えっ!? そういう薬草なの?」
薬草とは怪我や病気に使って初めて効果が出るものだと思っていたはるかは驚きの声を上げた。
「幸せな気分になったんだろ? 充分、薬草の効果だと思わないか? 気分が落ち込んだ時に見ると元気になる『気持ちの薬草』ってところだな」
「あっ……その表現、とってもいいね」
『気持ちの薬草』
私もそんな存在になりたいな。
この薬草に触れているからそんな事を考えたのかもしれない。
「駆け出しの冒険者はいろんな壁にぶつかる。そんな時にこの薬草を見て初心を思い出せという意味も込めて、ギルドはその薬草を加工して冒険者の証として持たせるそうだ」
「その流れを聞いているだけでも幸せな気持ちになるね」
「他の町にはまた違った証がある。この薬草はキニオスだけの特別な証だ」
その言葉を聞いてはるかの頬が自然と緩んだ。
「この世界の大切なものが増えていくのが……とっても嬉しい」
はるかはそう呟き、武器を飾る石に薬草を優しく触れさせ収納した。
そしてとても幸せな気持ちで満たされたまま……はるかがふと前を見ると——
森の中に少し変わった、大きめな可愛らしい白いウサギの姿をはるかの目が捉えた。
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