第49話 想いという名の敵意
冒険者の階級についての会話をしながら歩いていたら、ようやく門までたどり着いた。
「この町、かなり大きいんだね」
結構歩いたなぁ、なんて思いながらはるかは言葉を口にした。
「昨日の門とは真反対の門だしな。それに戦争があった時、被害に遭った他の町の住人を受け入れて更に大きくなったんだ」
「そうなんだ……」
本当はもっと気の利いた事を言いたいのに何も言葉が出てこない。
何を言っても言葉が軽くなるように思い、はるかはそれ以上、何も言えなくなった。
「さぁ、ここを出たら近くの森まで行くからもう少しだけ歩くぞ」
そんな沈んだはるかの気持ちを知ってか知らずか、カイルは気持ちを切り替えるようにこれからの話をしてくれた。
「わかった。頑張って歩くよ!」
「まぁ魔法で飛んでもいいんだけどな。体力作りも冒険者には必要な事だから頑張れ」
そんな励ましを受けながらはるか達が門を通り抜けようとした時、門番から声をかけられた。
「あれ〜? その子が噂の女の子?」
やけに甘ったるい声の持ち主が今日の門番だった。
「噂ってなんだ?」
普段の声より少し低めの声でカイルが答える。
「噂の親戚ちゃんでしょ? 生き残りの。全然似てないんだねぇ〜」
本来の持ち場を離れてゆっくりと近づいてくる可愛らしい女性。
門番って男の人だけだと思っていたけど違うんだ……。
そんな事を考えていたはるかの目の前で、門番の女性はピタリと止まる。
そしてゆっくりと顔を近づけてきた。
「あの……何か?」
何かを探るような視線を感じ、はるかはおずおずと尋ねる。
目の前にあった可愛らしい顔がはるかの耳元まで近づいた時、小さな声が聞こえた。
「何かを企んでいるのなら許さないから」
本当に小さな、それでいてはっきりとした言葉を耳元で囁かれはるかは目を見開く。
「カーシャ、何かあるなら俺が聞く。なんだ?」
「凄い綺麗な黒髪だなって思って! ついつい近くで見ていたら耳元で呟いちゃっただけ〜。そうだよね、親戚ちゃん?」
微笑んでくれてはいるが目が笑っていない。
敵意をこんなにもはっきりと感じるのは、このカーシャと呼ばれた女性がその事を隠す気がないからだ。
「そ、そうですね。褒めていただいてありがとうございます」
少し戸惑ったが、とりあえず言葉は出た。
こういう女性ならではのやり取りが昔から苦手で、常に人に合わせてきたはるかは嫌な汗が流れた。
私の存在が……何か気に障ってる?
でも、なんで?
善意ばかり受けていたはるかはいささか刺激の強い悪意を受け流しきれずにいた。
「本当か? もう用はないだろ? カーシャは馴れ馴れしすぎる。ハルカにあまり構わないでくれ」
そんなはるかの様子に気付いたようにカイルが言葉を吐き捨て、その場を去ろうとした。
「えぇ〜! なにそれ! 私は誰に対してもこうでしょ〜? それが私の良さなのに! 今度はゆっくり話しましょうね、親戚ちゃん」
「はい……。また今度」
カイルにその言葉を言われたカーシャさんは言葉の軽さとは違い、少し傷ついているように見えた。
カイルと私が関わる事が……気に障ってる?
そんな事を思いながらもはるかとカイルは足早にその場を離れた。
***
「遠い親戚……ね。今更現れてあそこまで大事にされて……本当にただの親戚なのかしら」
ぽつりと、去りゆく2人の背中に投げかけられたカーシャの疑惑の想い。
その小さな疑惑の声は暖かな日差しとは裏腹な、少し冷たさを含む風にさらわれ消えていった。
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