第46話 冒険用の魔法の使い方

 はるかは武器を腰回りの装飾品へと変化させる魔法を使う事にただただ戸惑っていた。


 まだ服しか変化させた事がないけれど……できるかな?

 不安は不安だけど……この子を信じてやってみよう。


 そう思った時、急にカイルから声がかけられてはるかは驚く。


「ハルカ、武器を持っている時は魔法の発動動作が少し変わる」

「えっ……? どういう事?」

「おぉ、そうじゃったな。ハルカさんはまだ初心者じゃ。武器を持った時の魔法の使い方から説明せねばな」


 そう言うとセドリックさんは手近な剣を手に取り、お手本を見せてくれた。


「呪文を唱えて手に力を入れれば発動する、と意識するのがわかりやすいかの?」


 そう説明した後、セドリックさんが低い声で呪文を唱える。


「風纏い」


 セドリックさんの声が店内に小さく響いたと思ったら、はるかが見ていてもわかるぐらいに剣を持つ手に力を込めていた。

 その瞬間——


 セドリックさんの持っていた剣から優しい風が流れてきた。


「これで風を纏った剣の出来上がりじゃ。日常魔法に慣れていると少しやりにくいかもしれんが、これも慣れじゃ。いちいち普段の動作をしていたら戦えんからの」

「確かにそうですね……」


 発動動作の切り替えも自分次第なんだなと、はるかは新たな発見をした。

 そして日常魔法も初心者のはるかにとってはこちらの方がやりやすいように感じた。


「さぁ、覚えた事はすぐに実践じゃ。やってみるといい」

「はい!」


 はるかは先程の装飾品の姿を想像しながら……呟く。


「変化」


 そして武器を持つ手に力を込めた。


 その瞬間——持ち手が砕け、沢山の小さな輪になりながら、はるかの腰回りを優雅に飾りつけた。


「できました!」

「うむうむ。利き手がすぐに装飾を掴む事もできる位置にあるしの。上出来じゃ!」

「ハルカは人の言葉をちゃんと聞けるから飲み込みが早いな」


 それぞれからの褒め言葉にはるかは照れながら喜んだ。


「わかりやすく説明して下さったお陰です。ありがとうございます! カイルも褒めてくれてありがとう!」


 そう告げるはるかは達成感と褒められた事によって気分が高揚し、頬に若干の熱を感じていた。


「ほほっ。とても良い物が見れたの。何よりの礼じゃな。カイルよ、これはしっかり捕まえおかないと知らぬうちにどこぞの誰かに連れ去られてしまうぞ?」


 その言葉にカイルの反応が少しだけ遅れたように思えた。


「……どういう意味だ?」


 少し険を含むカイルの言い方を全く気にもせずセドリックさんは言葉を続ける。


「わしが現役じゃったら……もう既に奪っておるところじゃがな」

「それはハルカが決める事だ。セドリックがどうこう言う問題じゃない」

「ほほっ! 今はそう強がっておくがよい」


 若いの、なんてセドリックさんにからかわれているカイルをはるかは戸惑いながら眺めていた。


 なんの話をしているんだろう……?


 鈍感と称された青年の連れの少女もまた、鈍感であったのだ。

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