第34話 意思を持つカケラ達
部屋に響き渡る女性2人の大きな声はすぐに鎮まった。
何故なら鈍感なカイルに対して同じような想いを込めた叫びと、お互いの言葉のタイミングが完全に一致した為、はるかとルチルは笑い出した。
「あっはっは! ハルカちゃんでも怒るんだね」
「ふふっ。今回の事は誰だって怒ります」
そこまで本気で怒っているわけではないが、やはり一般女子としてはお風呂に入りたい。
それにしてもなんでカイルはお風呂に入らなかったんだろう?
またも表情から心を読まれたようにルチルさんからその返事が来た。
「ハルカちゃんもそうだろうけどカイルの一族も元々流民で、その時も多分『浄化』だけで済ませていたんだろうね。ギルドの依頼で野宿の最中は『浄化』だけだろうし」
あぁ、そういう事だったのか。
はるかはまた1つ、カイルの事を知り納得した。
「忘れていたか……本当に知らないか、ですね」
「色々あった後……大変な生活をしていたから、何かの時の為に服を脱ぐ事もしたくないんだろうね」
そんなに身の危険を感じる生活の中にいるなんて……。
はるかは少しだけカイルの存在を遠くに感じた。
「ちょっとずつでいいからカイルを知ってやってね。血の繋がりがあるのは……もうハルカちゃんしかいないから」
「……はい!」
血は繋がっていないけれど……きっとこの出会いには何か意味があるはず。
カイルの事を知る為にも、この世界の事をもっと知っていこうとはるかは心に固く誓った。
「じゃあ話を元に戻そうか!」
両手をパンッ! と合わせてルチルさんが仕切り直した。
「まずは選ぶ所から。数が多いからいくつか今のハルカちゃんに合うものを私が選ぶよ!」
そう言うが早いかルチルさんは真っ直ぐにはるかを見つめ、呪文を唱えた。
「この者に相応しき子らよ、ここへ集え」
そう言い終えるとルチルさんはゆっくり瞳を閉じた。
そしてまた瞳を開けた瞬間——
壁の小さな引き出し達が勝手に動き出した。
引き出しの中から勢いよく飛び出したキラキラ輝く小さな結晶達がはるかの前に音もなく集まる。
夜でもないのに力強く輝く軌跡を目で追いかけながら思う事があった。
まるで流星群みたい……。
様々な色の軌跡が花火にも見えたが、流れ星のように見えたのだ。
しばしの間、余韻に浸っていたはるかにルチルさんがそっと声をかけてきた。
「綺麗だったろう? 選ぶ時の楽しみのひとつなんだよ」
満足気に微笑みながらそう話すルチルさんの表情は年齢よりも幼く、そして可愛らしくてはるかはどきりとした。
「凄く綺麗でした……。こんな風に選ぶんですね」
「今回は特別にハルカちゃんだけの為に選んだからね! みんなハルカちゃんに使ってほしい子ばかりだよ」
「えっ?」
どういう事だろうか?
理解が追いつかず、しばらくの間はるかは沈黙する。
「私がハルカちゃんのイメージを伝えて、それに反応したのがこの子達ってわけ。不思議でしょ?」
「ルチルさんの魔法って凄いですね!私の為だけに……嬉しいです」
どんな気持ちで来てくれたんだろう?
そう考えると不思議と心が温かくなる。
それにしても今回は私の為だけという事は、普段はどう選ぶのだろうか?
「普段はどうやって呼びかけるんですか?」
気になったはるかは続けてルチルさんにそう聞いてみた。
「普段はね、気候に合わせたりいくつかの要望に応えたりしながら選んでるよ。毎回個別には無理だからね」
「そうなんですね。それなのに今回は特別にありがとうございます!」
「お礼を言うのはまだ早いよ! 楽しいのはこれからだ!」
そう言ってルチルさんは楽しそうに笑うとこう言った。
「さぁ、直感で選んでごらん? 何も考えずに『これだ!』って思える子はどれかな?」
その言葉ではるかだけのカケラ選びが始まった。
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