第33話 お風呂はないけれど……?
これが瞑想っていうやつじゃない?
鉱浴を選ぶ部屋で目をつぶり、空腹を紛らわせていたはるかだったが、雑念が入ったせいでまた自身の空腹を強く感じる事になった。
「うぅっ……。余計な事考えるんじゃなかった……」
その時、待ちに待った人が帰ってきた。
「お待たせ! パンを数種類と野菜たっぷりの具沢山スープ、それと果物は私も一緒に食べるから沢山持ってきたよ!」
戻ってきた途端、食事の内容の説明をしながらルチルさんはテキパキとテーブルに並べ始めた。
「こんなに沢山、ありがとうございます!」
「朝はしっかり食べて、元気を出さないとね!」
並べ終わるとルチルさんは席に座り、それを合図にはるかは遅めの朝食を食べ始めた。
「はぁ……。美味しいです」
もうずっと美味しいしか言ってない。
だけれど他の言葉が見つからないので仕方ない。
はるかは美味しすぎて左手を頬に当てながらそんな事を考えていた。
「そこまで美味しそうに食べてくれると私も嬉しいよ。作り甲斐があるってもんだね」
ルチルさんは嬉しそうにそう言うと目を細めながらこちらを見ていた。
「さて、それじゃハルカちゃんに選んでもらっちゃおうかな!」
カイルやサンの昔話に花を咲かせていたのだが、果物をある程度食べ終えた時にルチルさんからこう切り出された。
「あの……選ぶってどう選ぶんですか?」
何の事だかわからないはるかは尋ねるしかなかった。
「まず、鉱浴って知ってるかい?」
「知らないです」
はるかは先程考えていた事を言おうかと思ったが、この世界は『お風呂』という単語がないかもしれないのでやめて、無難な返事を返した。
「鉱浴っていうのはその時の自分の直感に従って選んだ鉱石によって体を浄化しつつ、肌や髪の毛に潤いを与えてくれるんだ。男でも結構使ってるんだけど……カイルだからね」
ルチルさんは軽く食器を片付けながら苦笑まじりに呟いた。
「どういう風に使うんですか?」
「温浴の時にお湯に一緒に入れるといいよ。それだけで全身洗浄できるし、潤う。暑い日は水浴の時にぴったりな鉱浴もあるよ」
……ん?
『温浴』?
「もしかして……お湯に浸かれる部屋ってあるんですか?」
まさか……まさか、ね?
そんな疑惑の思いを心の中で呟きながらはるかは聞いてみた。
「ん? あるよ? だってここは宿屋じゃないか。………まさかあの『鈍感男』それも説明していなかったのかい?」
「はい……」
その事実をはるかは力なく答えるしかなかった。
『お風呂』という単語がないだけでお風呂みたいな存在があったなんて。
そして次の瞬間、乙女達の心に火がついた。
「「カイルーーー!!」」
はるかもルチルもその溢れる怒りの感情のままに叫んだ一言は『鈍感』と称された青年の名前だった。
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