第32話 腹ペコ少女の考察
ルチルさんにカイルは鈍感だと念を押されたはるかは、呆気に取られたと同時に空腹を感じた。
ぐぅ〜
そして自身のお腹からそれを主張する音が聞こえ、はるかは慌てた。
「あっ!」
「あぁ! 起きたばかりで何も食べてなかったんだね。軽くご飯を食べてから選ぼうか。ほら着いたよ」
恥ずかしさを感じつつもルチルさんからそう言われ、はるかは不思議な色の扉を見つける。
光の当たり具合で色々な表情を見せてくれる、艶やかな素材で出来た七色の扉へとルチルさんが近づいていく。
少しの間、その幻想的な美しさに見惚れていたはるかだったが、気になる文字を見つけた。
「鉱浴・選別室?」
「そうだよ。ここで選ぶんだ。普段はここで私達が選んだオススメの物を受付で宿泊者に選んでもらうんだ。でも今回は特別にハルカちゃんだけの為に選ぶよ」
そう言ってルチルさんはそっとその幻想的な扉を開けた。
中を覗いてみると、普通の部屋と同じような作りである事が確認できた。
中央に2、3人座れるぐらいの丸テーブルと椅子が置いてあるシンプルな内装。
違いがあるとすれば両脇の壁に小さめの引き出しがずらりと並んでいる事だけだ。
きょろきょろと辺りを見回していたはるかをルチルさんは手招きして椅子に座らせる。
「説明は後にして、朝食にしよう。宿泊者には元々、軽い朝食をつけているから気にせず食べるんだよ? 少しだけ待っててね!」
「あ、ありがとうございます!」
ルチルさんはそう言い残すと、今入ってきた扉の向こうへと消えていった。
1人取り残されたはるかは、引き続き気になっていた壁を眺める事にした。
「凄い沢山の引き出し……。『鉱浴』に『選ぶ』か……。うーん……全っ然わかんない!」
考えてもわからないものはわからない。
だからはるかは少しだけ想像してみる事にした。
多分お風呂の別の言い方……なのかな?
ルチルさん『浄化』で怒ってたからきっとそうだ。
でもこの部屋の感じ……水じゃないよね?
魔法の仕組みがあるのかな?
それにあんなに上の方の引き出し、どうやって開けるんだろう?
あとは……こんなに沢山の引き出しの中身を把握できるのだろうか?
何故そんな考えに至ったというと、名称らしき物が見当たらないからだ。
やっぱり魔法は使うんだろうなぁ……。
どんな魔法で選ぶんだろう?
そうやってはるかが集中して考えを巡らせていた時——
ぐー!
先程より主張が激しくなった自身のお腹にはるかは驚く。
そして苦笑しながらぽつりと呟いた。
「考えすぎてもっとお腹が空いた……」
昼近くまで眠ってしまったのと、頭を使ったお陰でかなりの空腹な事に気が付いてしまったはるかだが、今はこの場で待ち続けるしかない。
「ルチルさぁ〜ん。私はとーってもルチルさんのお帰りをお待ちしておりますよ〜」
そんな事を呟いたところでルチルが帰ってくるわけでもなく、お腹を空かせた少女はしばし無心になって沈黙する事を選んだようだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます