第17話 新たな出会い
はるかは部屋の窓に目を向けてしばらく外の様子を見ていた。
もう夕ご飯の時間だったんだ、と思ったその時ーー
ぐぅ〜
と、はるかのお腹が可愛らしく鳴いた。
体は正直である。
恥ずかしさのあまり、はるかは無意味に手でお腹を抑えた。
絶対笑われる……。
そう思ってカイルを見てみると、意外にも彼は笑っていなかった。
「初日にしてはかなり集中していたし、よっぽど頑張ったんだな。さぁ、早く食いに行こうぜ」
「あれ? 笑わないの?」
あんな間の抜けた音が響いたのに、笑わずにいたカイルの考えている事が純粋に気になって聞いてみた。
「ん? 笑ってほしいのか? 魔法はな、使うと疲れる。だから沢山食べて、沢山寝て回復するのが1番なんだよ」
あぁ、そうなんだ。
当たり前の事だから気にしないというか、そんな事気にしないのが『カイル』なんだな。
新しい発見にはるかはなんだか嬉しくなった。
「なんでニヤニヤしているんだ?」
その言葉で自分の顔がにやけている事に気付いたはるかだったが、上機嫌のまま怪訝そうな顔のカイルにふざけながらも思った事を伝える。
「カイルは良い男だな〜って思っただけ!」
「なっ!? いきなり何言い出すんだ!?そんな事言わなくても美味いものは食べさせてやるから変な事言うなよ!」
おぉ……意外な反応。
見た目がかっこいいから言われ慣れていると思ってた。
想像と違って面白い反応が返ってきた事にはるかの機嫌は更に良くなった。
また新しい発見ができたな、なんて思いながらはるかは心の中でふふふっと意地の悪い笑みを浮かべていた。
そして連れてこられたのは、はるか達が泊まっている宿の1階にある酒場だった。
宿に入ってすぐに小綺麗な受付が待っているのだが、その横に素朴な木材でできた扉も存在している。
その扉の向こう側がこの宿の酒場だそうだ。
昼間はカフェで夜は酒場と様変わりするのだが、客層はどちらも良いと評判らしい。
そんな説明をしながらカイルが扉を開けるとすぐに喧騒が聞こえてきた。
木の扉なのに防音の魔法でもしてあるのかな?
はるかがそう思うぐらい、物音が外へ漏れていなかったのだ。
だがそれを気にする事も忘れるぐらいの騒がしさと食欲を刺激する匂いが、はるかを包んだ。
「なんだ……? 今日はやけに騒がしいな? 何かあったのか?」
カイルが扉を入ってすぐの左側のテーブルにいた冒険者風の青年に声をかけた。
「あっ、カイルじゃん! 何かあったのか、じゃなくてあったんだよ! 知らないのか?」
不思議そうにその言葉を口にした青年はこちらを見て首を傾げた。
「あれ? 仕事の依頼主か?」
「いや、今の連れだ。色々と事情があって遅くなったが、ようやく迎えに行けた遠い親戚なんだよ」
はるかはその言葉にどきりとした。
うっかり忘れていた。
私は『カイルの遠い親戚』だ。
忘れないように何回も何回も頭の中で繰り返し言葉を反復させているはるかを他所に、説明を受けた青年が少し大きな声で叫んだ。
「うそだろ!? 親戚が生きてるってお前……奇跡だろ!」
親戚が『生きてる』?
聞いてはいけないような言葉を目の前の驚いた顔の青年は口にした。
たまたま入り口付近で人がいなかった事が幸いし、その声は喧騒の波にすぐ呑まれた。
聞き間違いじゃ……ない、よね。
はるかがその言葉の意味を理解したくはなくとも、青年の声が耳に残って離れない。
「あんまり大きな声で言うなよ……。 今日連れてきたばかりだから疲れてるんだ。そっとしてやってくれ」
やんわりとそう青年に釘を刺しながら、カイルはこちらに目配せしてきた。
「はじめまして。はるかといいます。どうぞよろしくお願いします」
カイルの合図に気が付いたはるかはとっさに無難な挨拶を口にしていた。
また普通の挨拶をしてみたけど、大丈夫だったかな?
青年が反応するまで少しの間があったので、はるかは身構えていた。
「悪りぃ……ちょっと感動しちゃって。俺はサン・クレース。サンって気軽に呼んでくれ」
人懐っこい笑みでそう答えたサンにありがとう、と言ってはるかは微笑みを浮かべてみせた。
こうして新たな出会いを果たしたはるかだったが、頭の中では先程の言葉がずっとチラついていた。
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