第287話「小悪魔劇場の裏側⑧」
※時系列が分かりにくい構成になってしまっていましたので、286話を改稿して一部をこの287話に移動させました。なので、一部同じ文章がありますがご了承下さいませ。ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんm(_ _)m
「久しぶりだね?アネット嬢、リゼット君、そして……ノエル君は初めましてかな?……では改めまして、僕はマクシミリアンとマリーの父で、ついでにこの国の国王をしているシャルルだ、よろしくね!」
リゼットが大慌てで二人の頭を押さえ付けたと同時に謎のシャケ似のイケメンこと、国王シャルルは気を悪くした様子もなく、にこやかに言った。
「「「ふぁ!?」」」
イケメンの正体を知ったアネ・ノエは思わず変な叫びを上げた。
ついでにリゼットも何となく空気を読んで叫んだ。
それからアネットが、
「え?ウソでしょ!?シャルル陛下と言えば、うだつの上がらない微妙な髭オヤジの筈よ!」
とても失礼なことを言った。
「ちょ、アネット様ぁ!?」
続いてノエルも、
「僕もそう聞いてます!こんなの絶対おかしいです!」
一緒になってシャケパパを侮辱した。
「ノエルちゃんまでぇ!?」
空気を読めない二人を止められなかったリゼットは、文字通り頭を抱えて絶望した。
「ふぇ〜お二人共なんて事をぉ〜ヤバいのですぅ〜もうお終いなのですぅ〜出荷決定なのですぅ〜今夜のメインディッシュなのですぅ〜」
「……はは、まあ、大体それで合ってはいるのだけど……ストレートに言われると傷つくなぁ」
だが当のシャルルは苦笑しているが、全く怒った様子はない。
因みに、この場にもし宰相エクトルが居たら大目玉間違いなしだったのだが、幸運なことに彼は現在、移動中のマリーに何か不測の事態が起こった場合に備えて執務室で待機中だった。
それからシャルルが怒っていないことに気付いたリゼットが、大慌てで二人に事情を説明した。
「お二人共ぉ!このお方はシャルル国王陛下で間違いないのですぅ!陛下はマクシミリアン殿下と同じくモテまくるのでぇ、嫉妬深くて有名な今は亡きアメリー皇后陛下にクソダサい髭とファッションを強要されてぇ、今でもそれを律儀に守っているのですよぉ!……ぐおっ!?」
リゼットが言い終わると同時に天井の装飾が落下して、彼女の脳天を直撃した。
だが、そんなリゼットをスルーして二人はシャルルの顔をマジマジと見つめた。
「え?そうなの!?……あ、でもよく見れば顔のパーツが髭ズラの時と同じだわ!」
「た、確かに似てる!」
それから驚きと共に叫んだ。
「だからご本人なのですぅ!」
ついでにリゼットもキレ気味に叫んだ。
「あはは、正確に言うとマクシミリアンが僕に似ているのだけどね」
そして、何故か当の本人は笑っていた。
それからシャケパパはスィーツと紅茶を彼女達に勧めた後、話し出した。
「さて、僕の容姿の話はこれぐらいにして本題に入ろうか」
「「「はーい」」」
ここでやっと姦しい連中が静かになり、大人しく返事をした。
「それで君達に聞きたいのはマリーのことなんだけど……その前に言っておきたいことがあるんだ。実は先ほどの玄関でのやりとりを、僕は少し離れたところから見ていたんだ」
「「「!?」」」
シャルルの言葉を聞いた瞬間、あっさりと主を見捨てた三人はギクリとした。
「……(ヤバっ!どうしよう!)」
「……(ふぇ〜出荷なのですぅ〜)」
「……(はわわわわわ!)」
そして、それを咎められると思い、三人は慌てた。
だが、続くシャルルの言葉は違った。
「君達はマリーと仲良くしてくれているみたいだね?ありがとう」
彼は穏やかな笑みを浮かべてそう言うと、軽く頭を下げた。
「え?」
「ふぇ〜?」
「ええ!?」
厳しい言葉が飛んでくると思って怯えていた三人は拍子抜けし、揃って間抜けな声を上げた。
だが、シャルルは気にせず話を続ける。
「マリーは不憫な子でね、幼い頃に本当の両親と育ての母を病気で亡くし、更に僕も忙しさにかまけて相手をしてやれず、彼女には随分と寂しい思いをさせてしまったんだ」
そこで彼は目を伏せた。
彼の表情からは、父親としての後悔の念が滲み出ている。
「そんなあの子が心を許せるのはマクシミリアンとフィリップ、そしてセシルちゃんぐらいしかいなかった……だが、途中でフィリップも色々あって自らの殻に閉じこもってしまい、残ったのはあの二人だけだった」
三人は静かに話を聞いている。
「だからマリーは二人に余計に甘えるようになり、マクシミリアンもそれが分かっていたからマリーをことさら可愛がった。その結果、マリーがマクシミリアンに過度に執着するようになってしまったんだよ、まあ、それ自体は別に悪いことではないのだけど……そしてセシルちゃんもマリーを実の妹のように可愛がってくれた、でも二人はあくまで優しいお兄ちゃんとお姉ちゃんなんだ……つまり、今まであの子には友達と呼べるような存在がいなかったんだ」
と、ここまで少し辛そうに話していたシャルルが、不意に視線上げて三人の方を見て微笑んだ。
「だから僕は……マリーにとって初めて出来た友達である君達が、あの子と仲良くしてくれて……凄く嬉しいんだ」
「そんな、アタシなんかが……」
「ワタシごときがぁ……」
「僕なんかが……」
そう言われた三人は思わず恐縮してしまったが、
「身分なんて関係ないよ、重要なのは君達がマリーを大切に思ってくれているということだ、だからマリーの友人として胸を張って欲しいし……これからも是非、あの子と仲良くしてやって欲しい」
シャルルにそう言われると、
「はーい!」
「は、はいぃ〜!」
「はい!」
明るく返事をしたのだった。
それを見たシャルルは嬉しそうに目を細めたあと、
「ありがとう……それでね?そのマリーの友人である君達にあの子の親としてお願いがあるんだ」
急に、さっきとは打って変わって自信なさげに言った。
「「「お願い?」」」
三人は首を傾げた。
「うん、実は最近のあの娘の行動を見ていると……少しばかり、おいたが過ぎるのでは、と思ってね」
それから苦笑を浮かべながら言った。
「「「あー確かに……」」」
つられるように三人も苦笑しながら同意した。
「不憫な子だから僕は今まであの子を叱れず、聡いがワガママな………まるで小悪魔のように育ってしまって……あはは、それでまあ、何と言うか……今更ながら、この後あの子と少し話をするつもりでいるのだけど……」
シャルルが気まずそうに言ったところで、
「「「つまりワガママ放題の娘にお説教するんですね!?」」」
何故か三人娘が目を輝かせた。
「え?あ、うん、身も蓋もない言い方だけど、その通り。ただ、その前にあの子の近況を知りたくてね、そんなことも知らないのは親として恥ずかしい限りなんだけど……良かったら教えて貰えてくれると助か……」
三人の反応に戸惑いながらシャルルが頼んだ瞬間。
「「「はい、喜んで!」」」
ハイテンションな居酒屋の店員みたいな返事が返ってきた。
「……へ?」
「マリー様のワガママや癇癪の話や……」
「労基も真っ青なブラック労働の実態とかぁ〜老獪な政治家も裸足で逃げ出すような、えげつない手口とかぁ〜」
「あ、怪しい薬の実験とか、いっぱいセクハラしてるところまで……」
三人はそこまで口々に言うと、
「「「アタシ(ワタシ)(僕)達、陛下に喜んで協力させて頂きます!」」」
最後は見事にシンクロしながら叫んだ。
「そ、そう、ありがとう……」
これには流石のシャルルも顔を引き攣られたのだったら。
……。
…………。
………………。
それから約三十分後。
「へ、へー……マリーってそんな麻薬カルテルみたいなことまでしてるんだ……」
シャルルは愛娘の実態を知り、ドン引き中だった。
実はこの三十分、マリーの悪行は枚挙にいとまがない為、彼女達の口からとめどなく溢れ出てきていたのだった。
「でもこれだけじゃないんです!」
「そうなのですぅ!」
「ですです!」
まだまだ言い足りないのか、彼女達は食い気味にそう叫んでいたが、ここでシャルルが大事なことに気付いてそれを遮った。
「ええ……お父さんショック……ん?あっ!みんな、ごめん!悪いけど話の続きはまた次の機会に頼むよ、そろそろマリーが僕の部屋に着く頃だから!」
「「「それは残念……」」」
折角の暴露大会が途中で終わってしまい、残念がる三人にシャルルは、
「今日は君達の協力のお陰で何とかなりそうだ、特にアネット君のお説教のお陰であの子が弱ってのは助かるよ、お礼はまたいずれ」
微笑を浮かべてそう言った。
そんな彼に三人娘は涙を浮かべ、
「陛下……どうかご無事で」
「ご武運をお祈りなのですぅ〜」
「陛下、死んじゃ嫌です!」
それぞれ縁起でもないことを言った。
するとシャルルも儚い笑みを浮かべて、
「みんな、生きていたらまた会おう……あと一つだけお願いがあるんだ」
それから悲壮な覚悟でそう言った。
「「「?」」」
「この後、弱ったマリーがこの部屋に来るはずだから慰めてやって欲しい……いいかな?」
「「「はい、喜んで!」」」
シャルルの最期の頼みに、三人は今日一番の元気な声で答えた。
「ありがとう……では親としての勤めを果たしてくるとしよう、失礼」
それからシャルルは儚げに微笑むと、静かに扉の奥へと消えて行ったのだった。
アネット達との話を終えたシャケパパが執務室へ引き上げた数分後。
「マリー様、大変お待たせ致しました」
ようやく目的地である国王シャルルの執務室の前まで来た時、侍従長がそう言って再び慇懃に頭を下げた。
「ハァハァ、やっと着きましたか……これは……幼女虐待なのでは……?侍従長、今日から……ハァ、夜道では……背中に、気を付けなさい……ハァハァ、あと最近、娘さん夫婦に……孫が、生まれた、そうですね?ハァ……その大事なお孫さんの身に……何かあったら……大変ですから、ハァハァ……早く顔を見に行って……あげた方がいいのでは?」
一方、無意味に上下左右に宮殿中を歩かされたマリーが、肩で息をしながら苦しそうな顔で脅迫すると、
「っ!?そ、そのように致します……それではどうぞお入り下さい」
侍従長は一瞬だけ顔を引き攣らせたが、プロ魂で何とか平常心を保ち、すまし顔のままそう答えた。
それから室内へマリーの到着を告げた後、執務室の重厚なドアをゆっくりと開けた。
こうして散々訳の分からないルートを遠回りさせられたマリーが漸く国王シャルルの執務室に到着すると、そこには、
「やあ、マリー。久しぶりだね?」
背後に宰相を控えさせたシャルルが、明らかにお説教モードでスタンバイしていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます