第259話「トマト味のシャケ……を味わった雌ライオン①」
これはトマト味のシャケを齧った雌ライオン側の話。
場面は少し戻り、四天王が倒されたところから。
「……はぁ、まったく何だコイツらは……で、次は御三家でも登場か?」
その時、我が(自称)四天王達を瞬殺した海賊女はうんざりしたような顔で言いました。
本来ならここでボスである私ことエルツーは『よくも我が配下達を!』と、激怒するところなのでしょうが……。
連中があまりにも、あっさりやられてしまったので、正直かなり微妙な気分になってしまい、
「……え、えーと……くっ!よくも子分達を!行け!お前達!」
「「「へい!」」」
と、仕方がないので強引に仕切り直しました。
それから私は憎き海賊女を小間切れにする為に、残りの手下達は牛二頭を足し留めする為に動き出しました。
因みに怒り狂っていた私でしたが、そこは前職的なものなのか無意識に現状を分析し、私単独では海賊女を直ぐに倒すことは出来ず、更にもし牛達が援護に回れば分が悪いことを理解していました。
加えて私の配下達では牛達を倒せないことも。
それらの要素を総合した結果、
①配下を使って牛達を足止めして時間を稼ぐ。
②その間に私が海賊女を倒す。
③それからゆっくり牛達を料理する。
④そして、最終的に無防備になった殿下を強引に私のモノにする。
という手堅い作戦を立てた……つもりだったのですが、上手くいきませんでした。
その原因は……またしても憎きあの海賊女。
なんと私が……暗部最強の使い手であるこの私が全力を出してもあの女を倒しきれなかったのです。
その結果、戦いは予想外に長引いてしまいました。
「くらえ海賊女!滅殺豪◯動!」
「うお!……なんの!行くぜ仮面野郎!神◯拳!あと、いい加減に姉さん返せ!」
くっ、しぶとい!
この女にはかなりのダメージを与えた筈なのに……なぜ倒れない!?
はっ!そうか、そこまで殿下のことを愛しているということか!
逆にそれほどまでに……それほどまでに殿下に愛されているというのか!?
ぐぬぬぬぬぬ!!
あと、さっきからこの女、姉さん姉さんと本当にしつこ過ぎるのでは?
一体どれだけシスコンなのだ?
まあ、こんな頭のおかしいシスコン女の姉など、きっとロクでもない奴に決まってますが。
間違いありません!保証します!
ただ不思議なことに、この女の姉を罵ると、まるで天に向かって唾を吐いているような気持ちになる何故でしょうか?
……などなど、色々と考えながら十分ほど一進一退の攻防を繰り広げていたのですが、残念ながら時間切れです。
「「これで一丁上がりなのですぅ!(ッス!)」」
なんと私が海賊女を倒すより先に、配下達が牛達に敗北してしまったのです。
「ぐわぁ!」
そして今、最後に残ったアランが牛達にやられて後ろの方へ吹き飛ばされ、何かにぶつかり派手にひっくり返りました。
牛二頭はそれを見届けもせずに、さっさと海賊女の援護にやってきました。
これで私の勝ち目は……ほぼありません。
「くぅ……まだ……」
ここで諦める訳には……。
しかし、最早、満身創痍の私はそう呻くことしかできません。
そして、連中はそんな私に降伏を促してきました。
屈辱です。
「おい、もう諦めろ厨二女!お仲間は全滅だぞ!」
「そうッス!諦めるッス!」
「ねえ、もう意地を張るのはやめて帰りましょうよぉ〜」
悔しいですが一人になり、追い詰められた私にはどうすることもできません。
すまないアラン。
最後まで抵抗してくれた配下達に心の中で謝罪しつつ、敗北を悟りました……。
くっ、かくなる上は潔く散るしかないか……殿下、どうかこの愚か者の最期を見届けて下さいませ!
と私は悲壮な覚悟を決めた後、最後に一目だけと思い、チラリと愛する殿下を見た瞬間……。
「黙れ!だから何だと言うの……だ、ん?あれは……!」
私の全身から血の気が失せました。
「あん?よそ見とはいい度胸だ……な!?おい!シャケ!お前血塗れじゃねえか!」
「え?」
「ふぇ!?……ん、ああぁ、あれはぁ〜……」
そう、そこには何と殿下が……愛する私の殿下が大出血をして倒れていたのです!
酒場の奥の方で倒れたテーブルや散乱した料理の中で殿下が倒れているのです!!
不謹慎にも私は一瞬、まさか……と最悪の事態を想像しかけたところで、気丈にも殿下が起きあがろうとされるところを見て一安心でした……本当に。
「え?私!?血塗れ?あ、いや、これは……うわ!」
ですが、殿下は上手く力が入らなかったのか、何かを言い掛けた直後に昏倒されてしまいました。
「ぐはぁっ!」
そして、そのまま激しく頭部を床に打ち付けた後、力無く横たわり、動かなくなってしまいました。
そのお労しいお姿を見た直後、私はそれ以外のことが全て頭から消え去り、残ったのは今すぐ殿下の元へ駆け付けることだけでした。
「殿下ぁ!今参ります!」
私はそう叫ぶと同時に身体が動いたのですが、またしてもここであの女が立ちはだかりました。
「大丈夫かシャケ!……おい!仮面野郎!動くんじゃ……うわぁ!」
今思えば一言、殿下がお怪我をされているのだ!と叫べば良かったのでしょうが、この時の私は本能的に目の前の女を排除した方が早いと判断して即座に動きました。
殿下の惨状を目の当たりにしてリミッターが外れた私は、自分の身体が壊れるのも厭わず海賊女を全力で攻撃。
ガードした状態の海賊女をそのまま吹き飛ばし、奴はカウンター奥の壁に派手に激突して大量の酒瓶を破壊しました。
「…………かはぁ!」
そして、カウンターの内側に落ちて沈黙。
どうやら気絶したようでした。
「な!?厨二女!よくもレオ姐さんを!覚悟するッス!」
「ルーちゃん!?待つのですぅ!」
次にそれを見たリゼットの色違いが激昂し、リゼットの制止も聞かずにメイスを振り回しながら襲い掛かってきました。
見たところかなりのパワーとスピード。
相当の使い手のようでした……が、しかし。
今の私にとっては敵ではありません。
「邪魔を……するな!」
私は素早く鳩尾に掌底を叩き込みました。
「おりゃあ!……ぐえっ!」
そして、リゼットの色違いも沈黙。
それから最後に残ったリゼットは、
「ちょ!?落ち着いて下さいってぇ〜!ヤバそうに見えますけど殿下は大丈夫……」
「どけえええぇ!」
何か言っていますが、私の邪魔をするようだったので取り敢えず排除することにしました。
「うーん、今のこの人は全く聞く耳を持たないしぃ〜、かと言って何もせずに逃げ出したらマリー様に殺されてしまいますしぃ〜……はぁ、一応出てって瞬殺されてきますかねぇ〜……はああああ、せいや!」
するとそれを察したのか、この駄牛にしては珍しく、正面から全力で私に向かってきました……が、所詮は駄牛。
「遅い!」
止まって見えます。
瞬時にリゼットの背後に回り込んだ私は、駄牛の頭に素早くゲンコツを三つ落としました。
「ぎゃあああああ!」
駄牛は悲痛な叫び上げながら、3段重ねのアイスのようなタンコブができた頭を押さえてゴロゴロ床を転がった後、動かなくなりました。
これで障害は無くなりました。
さあ、急ぎ殿下の元へ行かなければ!
そして、敵を全て制圧した私は神速で殿下の元へ駆け寄ると真っ赤に染まった殿下を強く抱きしめ、
「殿下!いやぁ!死なないで!」
と、生まれて初めて大粒の涙を流したのでした。
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