第221話「豊胸戦記④」
バイエルラインの皆さんに葡萄をご馳走することを決めた私は早速その手配をした後、次の課題を考え始めました。
それは……大義名分です。
今更ですが、私と領民が侮辱されただけでは動機が弱い気がするんですよねー。
しかも既に報復としてゴリラと愉快な仲間達を殺っちゃいましたから、それでいいじゃん!と言われてしまうと実際そうなので困ってしまうんですよねー。
はぁ、このままではいくら私が筆頭公爵家の娘でも、二万の軍勢を率いて勝手に他国に攻め込んだら、流石に怒られてしまいます。
それに私の独断だと正直に言ってしまうと、兵達の士気にも関わりますし……。
ということで、ここは是が非でも錦の御旗が欲しいところです。
うーん、何かありませんかねー。
可憐な公爵令嬢と憐れな領民達の仇打ち以外の理由が。
……まあ、誰も死んではいませんが。
うーん……あ!そういえばゴリラはリアン様の悪口も言っていましたね!……イラッ!
それもあり余計にカッとなって、ゴリラを殺ってしまったのでした。
でも……それを足しても理由としては弱いですねー。
むー、このままでは私の華麗なるトランスフォーム計画が台無しになってしまいます!
ああ!もう!うー!……助けてリアン様ー!(>_<)
行き詰まってしまった私は、取り敢えず心の中で愛する人に助けを求めて叫んでみたり……ん?
リアン様?
そうです!リアン様です!
ふふ、私には愛するリアン様がいるではありませんか!
今回は非常事態ですし、緊急避難?ということで、ちょっぴりリアン様のお名前をお借りすることにしましょう!
そうそう、ちょっとだけ、ちょっとだけですからね!痛くないですからね!
それに私には聞こえる……ような気がするのです!
リアン様(妄想)が叫ぶ声が!
自分の仇を取ってくれ!そして、憐れなバイエルラインの民を救えと!叫ぶその声が!(多分)
私には聞こえる!……気がします!
あと、他にはナイスバディになった君を見たいとも言っています!(願望)
これはもう、やるしかありません!
あ、今「やる」と言ったのは敵を殺害するという意味で、決して卑猥な意味では……キャー!(≧∀≦)
よし、兎に角これで決まりです!
誰が何と言おうと決まりです!
私は『リアン様の勅命』(私の心の中限定)により、(無断で)ランスの敵を討ちます!
その為にちょっとだけリアン様のお名前をお借りします。
もしバレてもリアン様はお優しいので絶対私を怒ったりしない……筈です!
き、きっと、大丈夫!
最悪、魅力を増した私が身体を差し出せばきっと許してくれますから!……多分。
さあ、そうと決まれば出陣の挨拶を考えないといけませんね!
翌日、我がスービーズ城近くの演習場にはバイエルライン遠征軍の第一陣、総勢二万二千が集結しました。
騎兵、歩兵、弓兵、砲兵、マスケット銃兵などバランスの良い編成です。
勿論、数だけではなく質も士気も高く、統率の取れた優秀な軍です。
これなら単純に同数のバイエルライン軍と当たっても、まず負けないでしょう。
あと、多少のトラブルもありましたが新兵器も何とか間に合いました。
実は私が新兵器のアイデアを持って行った時、砲兵の皆さんが砲身が傷付くと言ってあまりいい顔をしなかったのです。
しかし、皆さんも葡萄は如何ですか?と私がニッコリしながら言ったところ、二つ返事で快くオッケーしてくれました♪
あとは兵糧の準備や地理、政治情勢などの事前情報の収集も時間が無い中で皆さんがよく頑張ってくれたので、かなり充実しています。
加えて、状況もこちらが有利です。
何と言っても、戦争の気配どころかお見合いをして友好を深めようとしていた国が突然攻めてくるのですから、バイエルライン側は準備不足の筈です。
しかも宣戦布告と同時に攻め込むので、連中は慌てふためくことでしょう。
あ、そういえば今頃、敵に私のメッセージが届いている筈ですから、まさに慌てている最中でしょうね、ククク。
それで、えーと……兎に角、質も量も状況も全てランスが有利なのです。
つまり、以上のことから今回の遠征の成功率はかなり高いと私は思っています。
さて、それではそろそろ仕上げと行きましょうか。
私は心の中でそう言った後、身に纏った純白の鎧を煌めかせながら、整列する兵達の前に置かれた台の上に上がりました。
すると、
「総員、傾注!」
横でアベルが普段のふざけた態度からは想像もつかないような鋭い声で、居並ぶ兵達に叫びました。
すると一瞬でその場の空気が変わり、私に二万を超える視線が集まりました。
さあ、最初の見せ場です。
「皆さん、おはようございます!私はこのバイエルライン派遣軍司令官の任を拝命したセシル=スービーズです!宜しくお願いします!それでは今から今回の遠征の意義について説明します。事の発端は、我が国に滞在していたバイエルライン第二王子、ジークゴリトとその配下達が我らが祖国で狼藉を働いたことにあります。連中は何の罪もないランスの民を突然襲って食料や金品を奪った上、暴力をふるって傷付けました!そればかりか、年頃の乙女を拐って犯そうとすらしたのです!」
「「「!」」」
いいですね、明確な悪い敵が現れたことで皆の愛国心に火が付き、場の雰囲気が盛り上がり始めました。
それから、
「そればかりか、ジークゴリトは饗応役の私を見るなり、ランスの白百合を手折るのもまた一興!などと言いながら私を犯そうとしました!しかも!しかもですよ!?その際、私の美しいスレンダーな身体を見ながら薄いと馬鹿にしてきたのです!ね?絶対許せないでしょう!?」
と、私は拳を振り上げながら熱っぽく、そして少しだけ話を誇張しながら語ったのですが……。
「「「シーン……(いや、それはただの事実では?)」」」
なんだかいきなり連中の熱が冷めてしまいました。
そして、何故でしょう。
なんだかよくわかりませんが、とてもイラッとしました。
「ふざけたことを考えているとぶち殺しますよ!?」
「「「ひぃ!?」」」
「コ、コホン!兎に角!ゴリラは私を侮辱したのです!更にそれだけではありません!なんと奴は我が国の第一王子マクシミリアン殿下に対して、貴様は産卵を終えたシャケのように無力で無能な奴だ!などと口汚く罵り、侮辱したのです!」
「「「なんだと!?」」」
よしよし、また盛り上がってきましたね!
「そして、一連の暴挙を見せつけられた私はサクッとジークゴリトを討ち取りました」
「「「!!!???(マジか!?)」」」
「本来ならばこれで終わりなのですが……そうはなりませんでした。心優しいマクシミリアン殿下はジークゴリトが顔を合わせた際に言っていた、民などいくら刈り取っても生えてくる雑草だ!という言葉を聞き、バイエルラインの民が置かれている状況に心を痛められたのです。そして、殿下は決意されました。たとえ他国の民であろうとも、悲惨な境遇に置かれた人々を見捨てる事は出来ない、と!そして、殿下は直ちに勅命を出され、私に名代としてバイエルラインの暴君を倒し、民を救えと命じられたのです!」
「「「おお!!」」」
おー、皆んな信じてますね!
あと一押しです!
「つまり、我々は巨悪を倒し、憐れな民を救う正義の軍なのです!さあ!共に行きましょう!正義の為に!」
「「「おおー!マクシミリアン殿下万歳!ランス王国に栄光あれ!」」」
私がそういうと、その場は心に熱いものを宿した漢たちの割れるような歓声に包まれたのでした。
これで準備は整いました。
さあ、豊満ボディを手に入れる旅に出発です!
その頃、バイエルラインでは……。
王都にあるノイシュバーン城に居たバイエルライン王の元へ、セシルに送り返された護衛騎士達がたどり着き、第二王子ジークムントの首を届け、事の次第を報告したところだった。
「報告は以上でござ……」
「この愚か者共めが!我が息子ジークムントを目の前で殺されたにも関わらず、オメオメと戻ってくるとは何を考えておるか!」
大事なモノを切り落とされながらも、何とか主人の首を届け、必死に状況を説明した騎士達の言葉を怒り狂う王が遮った。
「も、申し訳ありません!」
「黙れ!この腰抜け共め!アレを守れなかったことも、仇を討てなかったことも許せないが……更に許せないのは、お前達が生きておることだ!アレを死なせ、更に仇も討てない状況ならば潔く討ち死にするのが騎士であろうが!」
「陛下!た、確かにそれはごもっとも!しかし!敵であるあの公爵令嬢セシルは桁違いに強く、我々全員で掛かってもなす術なく……」
と、騎士はセシルが強いことを強調し、自らが若い娘を強姦しようとして拘束されていたことを誤魔化した。
するとその話を聞いた国王は目を剥いた。
「バカな!あれに付けたのは各騎士団から選び抜かれた五十人の精鋭だぞ!?それをたった一人で、だと!?」
「はい、ですからその精鋭達の殆どが、たった一人の公爵令嬢に、それも一方的に討ち取られてしまったです……」
「だが……そんな筈があるか!……いや、今はそんなことはいい!それより先にやるべきことがある!それは我が息子を殺し、我が国を侮辱したランスに後悔させてやることだ!皆の者!戦の支度を致せ!」
そして、ボルテージが最高潮に達した国王は烈火の如く怒りながら、そう叫んだ……のだが。
「あの……陛下」
そこで水を差すように、ゴリラの護衛騎士(宦官バージョン)が、おずおずと言った。
「ランス側の準備が整う前に攻め込み、慌てふためく奴らを残らず血祭りにあげてやるのだ!よいか!必ずやランスを火の海に……ってなんだ!今いいところなのに!まだ、何かあるのか!このド無能めが!」
自分の言葉に酔いしれていた国王は、いいところで邪魔をされた為、護衛騎士を罵倒した。
「はい、実はその公爵令嬢セシルより言伝がありまして……」
「は?小娘から言伝だと?」
そして、怪訝そうな顔の王に先を促された護衛騎士は、もの凄く言いづらそうに一言一句そのままセシルの言葉を伝えた。
「はい、え、えーと……コホン、『貴公の首は柱に吊るされるのがお似合いだ』だそうです……」
すると、これには流石のバイエルライン王も顔を引き攣らせた。
「な、何!?そ、それはつまり、ランスからの……」
「宣戦布告です……」
「マジで!?」
こうしてバイエルラインはランスに攻め込むどころか、逆にランスに先手を取られ、完全に浮き足だってしまった。
その混乱の所為で迎撃部隊の編成が遅くなり、結果ランス軍を無傷で国境のかなり内側にいれることになってしまった。
そして、それから半日後、漸く落ち着きを取り戻したところで第一王子と第三王子が率いる一万五千が出陣したのであった。
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