第195話「その頃、猛獣達は?II ②」
そのニ、コアクマリー。
詐欺師シャケが元ツンデレを言葉巧みに口説き落とし、自らの猛獣ハーレムに加えたのと同じ頃。
マリー、アネット、リゼットの三人はストリアの皇子オットー率いる援軍と共に帰国したところで、彼女達は今、ランスの地方都市にある高級ホテルに滞在中だった。
そのバルコニーでは、マリーは優雅にお茶を啜り、アネットは自分へのお土産として買ってきたザッハトルテ(ホール)を頬張り、リゼットは目の前のザッハトルテを物欲しそうな目で見ながら給仕をしていた。
すると、そこへ暗部改め情報局員が音もなく部屋に現れて一礼すると、マリーに報告を始めた。
「マリー様、お寛ぎ中失礼致します。ブルゴーニュより先発した先遣隊3000がコモナ城を包囲しました。なお、敵は城に篭りましたが士気が低く、既に逃亡する兵士も多数出ている模様です」
「そうですか、ご苦労様です。情報局は引き続き遠征隊のバックアップをお願いしますね?」
話を聞いたマリーは優雅な所作でティーカップを置くと、静かにそう言った。
「はい、畏まりました。それともう一つご報告がありまして……」
その局員はマリーに返事をした後、今度は少し固い声で話を切り出した。
「はい、どうしました?」
「実は今回のコモナ侵攻の件で説明を求めたり、抗議をしたりする為に周辺国の外交官達が大量に外務省に押し寄せておりまして……」
そして、若干気まずそうにネガティヴな報告を終えたのだが……。
「え?それが?」
何か問題でも?という顔でマリーは聞き返した。
「え!?いや、あの、ですから如何致しましょうか?」
予想外の反応に局員は戸惑ってしまったが、何とかそう言って指示を仰ごうとした、しかし。
「だから、何がわからないのですか?」
マリーの反応は変わらない。
「え!?ですから彼らの扱いをどうするか、ということなのですが……」
そして、再び問い返された局員がそう言った瞬間。
「そんな連中、纏めて潰しなさい」
マリーは平然とそう告げた。
「は!?つ、潰す!?」
可哀想な伝令役の局員はパニックだ。
だが、そんなことに構わずマリーは話を続ける。
「当たり前です。こんな時の為に他国の在ランス大使館の大使その他の職員の情報を調べ上げているのでしょう?賄賂でも借金でも性癖でも不倫でも何でも暴露して、全員二度と政治や外交の面舞台に立てないようにしてやりなさいな」
「本気でございますか!?」
他国の外交官達を同時多発的に社会から抹殺すると言う暴挙を命令されて驚いた局員は、大慌てでそう聞くが……。
「では後は宜しくお願いしますね?下がりなさい」
マリーはそれをスルーし、帰ってきたのはそんなセリフだった。
「は、はい……畏まり、ました……それでは失礼します」
それを聞き、遂に抵抗を諦めた伝令役の局員はそう言うと元気なさげにシュバっと消えた。
それを見届けたマリーは淑やかな王女の仮面を脱ぎ捨てて、代わりにニヤリと黒い笑みを浮かべ、
「フフ、順調ですね、このまま行けば無事に目的を達成出来そうですし……そうなれば……」
そのまま妄想の世界に浸りながらぶつぶつ言っていると……。
「ムグムグ……ゴクン……ねえ、マリー」
彼女の横で我関せず、とザッハトルテを頬張っていたアネットが声を掛けた。
「グフフフ、お義兄様は私のものに……いえ、私がお義兄様のものに……きゃー」
だが、マリーは自分の妄想ワールドにトリップしていてそれに全く気付かない。
「ねえったらー……もう!」
再びシカトされたアネットは溜息ついた後、マリーをゆさゆさと揺すった。
「ふぁ!?な、何ですかアネット!?いいところだったのに!」
すると、強引に現実世界に呼び戻された変態小悪魔が驚いて声を上げた。
「いいところ?……って、そんなことより本当に大丈夫なの?」
続いて呆れ顔のアネットがそう尋ねた。
「そうですよぉ〜マリー様ぁ〜!」
更にここで今までアネットのザッハトルテを見ながら涎を垂らしていたリゼットが話に加わった。
「え?何がです?」
だが、当のマリーはきょとんとしている。
「何がって……アンタがコモナの王様をハメた上、ストリアのムキムキおじいちゃんを焚き付けてランスに無断で隣国を滅ぼそうとしていることよ!」
すると、アネットがキレ気味にそう言った。
横ではリゼットがうんうん、と頷いている。
「ああ、そんなことですか、大丈夫ですよ?この計画ではコモナ以外はみんな得をしますし、お義父様などちょっと涙を見せたらイチコロですから♪」
が、マリーはあくまで余裕の態度を崩さない。
そんな彼女にアネ・リゼはジト目で、
「アンタねえ……お付きのアタシやリゼットが連帯責任で怒られたらどうしてくれるのよ!」
「そうですよぉ〜!もうお仕置きは嫌なのですぅ〜!」
と本音をぶちまけた。
だが、それでもマリーは動じず、
「まあまあ、全てが上手く行けば二人共悪いようにはしませんから、ね?」
それどころか悪代官のような黒い笑みを浮かべてそう言った。
「もう……本当に大丈夫なの?」
「本当なのですかぁ〜?」
しかし、まだ心配な二人は食い下がろうとするが、
「はい、大丈夫です♪……さてと、そろそろ可愛いオットーちゃんを愛でるとしましょうか♪」
上機嫌のマリーにサラッと流されてしまったのだった。
その後、外交官達は何も知らずに対応に出てきたシャケに噛みつこうとして追い払われた上、数日後にはそれぞれの本国で表沙汰には出来ない個人情報を暴露されて全員面舞台から永久に消えてしまったのだった。
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