第132話「赤騎士 セシル=スービーズ①」
これは赤騎士ことセシルがシャケの唇を奪い、彼の部屋を辞去した直後のこと。
ドカン!ガシャン!ボコッ!
「「「きゃー!」」」
その時、突然物騒な破壊音がしてトゥリアーノン宮殿の廊下で悲鳴が上がった。
何事かとそちらを見れば、そこでは赤い鎧が次々に壺や鎧、絵画などの装飾品に激突して破壊しながら、廊下をフラフラと移動しているところだった。
何故か両手で顔を覆いながら。
その赤い鎧はその後も、まるでピンボールの玉のようにあちこちにぶつかりながらアテもなく移動し続けた。
そして、最終的に体を張ったレオニー達に止められるまで建物内を彷徨い続けて、新たな都市伝説を増やすことになった。
一体何故こんなことになっていのかと、皆様は不思議に思われることだろう。
それでは本人の口から語って貰うとしよう。
「あうぅー……私はリアン様に何てことを……」
その時、私は先程の自分の所業を思い出し、あまりの恥ずかしさに両手で顔を覆いながら震えていました。
ああ、私はなんてことをしてしまったのでしょうか……。
『事故』とは言え、リアン様の唇を奪ってしまうなんて!
何てラッキー……ではなくて、何てはしたない!
嫁入り前の、しかも今は婚約者ですらない女がキ、キキ、キ……ス、なんて……。
でも……初めて味わったあの感触は最高でした……。
もう死んでもいいかも、とか思ってしまうほどに。
まあ、実際に今この瞬間、恥ずかし過ぎて本当に死んでしまいそうではあるのですが。
ああ、先程の場面を思い出すと私は、私は……きゃああああああああああああああああ!
もうダメです!
思い出しただけで、色々と頭がおかしくなりそうです!
え?お前の頭は元々おかしいだろうって?
死にたいんですか?
コホン。
で、兎に角、今は最高に幸せ!な気分であると同時に、同じぐらいに恥ずかしく不安なのです。
実はそれで頭を抱えている訳なのです。
あと、気の所為だと思うのですが、さっきから何かにぶつかっているような……まあ、それはいいとして。
ああ!もし今後、赤騎士の正体をリアン様に知られた時、
『セシル!私はお前がこんなに破廉恥ではしたない女だとは思わなかったぞ!立ち去れ!』
なんて言われてしまったら、二度と立ち直れません……。
ああ、あの肝心な場面でドジるなんて……私のバカー!
悔やんでも悔やみきれません……。
うう……困りました……。
え?何があったか知りたいのですか?
ええー……話したくないです……でも、仕方ありません。
皆様には特別にお話致しましょう。
まず事の発端は先日、一ヶ月間の仕事ぶりと、遠征での頑張りを評価されて、リアンにご褒美を頂けることになったのです。
しかも、リアン様が出来ることなら何でもお願いして良いとのこと!
それを聞いた瞬間、私は嬉しさで飛び上がりそうでした。
こんなことは今までリアン様とずっと一緒に居て、初めてでしたから。
次に私は何をお願いしようか考えました。
考えて考えて考え抜きました。
そして私は思いました。
こんな機会は二度と無いかもしれないのだから、大胆なお願いをしてみようと。
だから私は……淑女として、かなり際どいラインを攻めることに決めたのです。
それは……リアン様に抱きしめて貰って……可能ならほっぺにキ、キキキ、キスとかしてしまおう、というものです!
正直、人生でここまで悩み抜いたことはありませんし、決めたその瞬間から期待と不安と緊張でドキドキし過ぎておかしくなってしまいそうでした。
私的には完全武装の騎士千人を切り倒せ、と言われるより怖いです。
ですが、私も女の端くれ、愛する方と少しでも親密になれるように頑張ります!
因みに作戦はこうです。
まず、リアン様に願いを聞かれる筈なので、そこで私は目を瞑って欲しいとお願いします。
次に兜を取り、静かに接近、そして……そして!
一思いにリアン様に抱きついて暫くその感触を堪能し、リアン様成分を急速充電します。
その後、仕上げに無防備なリアン様の美しいお顔にキスを……きゃあ!
恥ずかしい!私ったら大胆!
本当は唇に行きたいところなのですが、淑女として結婚するまでは……いえ、せめてもう一度婚約者になるまでは我慢です!
というか、情け無い話なのですが、実は今の私にはそんな大胆なことをする勇気がありません……。
正直、抱きついてほっぺに……で精一杯……。
ですから私は、自分は愛の戦士、薔薇騎士などと虚勢を張り、なんとか自分を保っています。
はあ、本当に大丈夫なのでしょうか。
大失敗して嫌われたりしないかな……。
などと、色々考えているうちにいつの間にかリアン様のお部屋の前まで来てしまいました。
極度の緊張と恐怖で足がすくみ、心臓が破裂しそうなほどバクバクと音を立てています。
ああ、どうか神様……この情け無い私に勇気をお与え下さいませ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます