第130話「スパイ レオニー=レオンハート③」

 その時私はこの方の元で働きたい、役に立ちたいと心の底から思いました。


 そして、これは他の暗部員達も同じでした。


 こうして私達全員はその日、一瞬にしてマクシミリアン殿下の虜になってしまったのです。


 翌日から私は、いえ私達は初めて誰かの為に本気で仕事に取り組むようになりました。


 あの方の役に立ちたいと思う一心で。


 その結果、これも初めてのことなのですが、仕事にやり甲斐というものを感じることができたのです。


 今までは一度もそんなものはなく、ただ言われたことをこなすだけ……いえ、やらされていただけでしたから。


 殿下の元で私達は、作戦の為の情報収集や分析、交渉など様々な業務を行いました。


 それらは決して楽でも安全でもありませんでしたが……なんというか、それ以上に達成感や満足感など得るものが多かったと思います。


 今までと内容は変わらないのに、全く違うことをしているようでした。


 それから暫くは忙しくも充実した日々が続きました。


 新しいメンバーが加わったり、みんなで大騒ぎをしたり、怒ったり泣いたりと大変でしたが、刺激的で充実した毎日でした。


 殿下がいて、セシル様(赤騎士ver)がいて、マリー様がいて、リゼットその他の暗部員達がいて、そして……私がいて、本当に楽しい日々でした。


 毎日が輝いていました。


 人生で初めてそう思いました。


 今までモノクロだった世界が、急に色彩豊かなものに変わりました。


 私は初めて生きていて良かった、と感じました。


 本当に幸せだと思いました。


 ……ですが、人間とは欲深いものです。


 何と、私にも欲が出ました。


 畏れ多くもマクシミリアン様のことを愛してしまったのです。


 何時からというのは、はっきりと言うことは出来ないのですが……。


 このひと月の内に、いつの間にか尊敬が愛情に変わっていました。


 気が付けば私は殿下に夢中でした。


 私の胸は、あの方に尽くしたいという思いでいっぱいになっていました。


 勿論、私はセシル様のように後先考えずに行動したり、マリー様のように策謀で絡め取るようなこともせず、理性的に行動しました。


 ……何か言いたいことでもおありでしょうか?


 コホン。


 兎に角、私は殿下の側にいられるだけで幸せでした。


 私はただ、殿下の役に立つ道具で居られれば十分でした。


 何故なら、繰り返しになりますが私のような者がその先を望めば、確実にご迷惑をお掛けしてしまうからです。


 それに殿下の周りには非常に魅力的な女性が多く、私など女として眼中にないと思いました。


 正直、女として自信がありませんでしたから。


 ですから私はマクシミリアン様の側でお仕え出来るだけで幸せだったのです。

 

 ですが、夢には必ず終わりが来ます。


 勿論それは、分かっていたことでした。


 幸せなこの時間は、ひと月だけなのだと。


 しかし、あまりに満ち足りた幸せな時を過ごしてしまった私は、願ってしまったのです。


 この幸せがもっと続けば良いのに、と。


 心の底から。


 だから私は、暗部を辞めることにしたのです。


 そして、どんな形でもいいのでマクシミリアン様について行くことにしました。


 メイドでも、庭師でも、用心棒でも、鉄砲玉でも、愛妾でも、兎に角何でもいいので近くにいたい、そう思ったのです。


 ただ、料理だけは全く出来ないので万が一調理担当を、と言われてしまうと困りますが……。


 あと勿論、望むなら部下達も連れて行くつもりでした。


 しかし、それを小悪魔……もとい、マリー様にお伝えしたところ、見事に却下されてしまいました。


 勿論、当初は何と言われようと、例え力尽くでも辞めてやろうと考えていたのですが、マリー様にある事実を持ち出され、断念しました。


 私を暗部に残らせた理由、それはルビオンが方針を変え、今後マクシミリアン殿下に危害を加える可能性が高い、というものでした。


 皆様は、それなら暗部を辞めて私が殿下に張り付いていた方がむしろ安全なのでは?と思われるかもしれません。


 しかし、中々そうもいかないのです。


 何しろ相手はあの狡猾なルビオン情報部、私個人だけで組織の力に対抗するのは難しいのです。


 そう考えるとやはり、殿下を確実にお守りする為には、どうしても暗部という組織の力が必要になります。


 そういう訳で私は致し方なく、暗部に残ることになったのです。


 


 さて、間もなく殿下のお部屋に到着致しますので、話はここまでに致しましょうか。

 

 実は要件をまだ伺っていないので、この後一体何があるのか、期待と不安でいっぱいです。


 密かに遠征のご褒美を頂けるのでは、と邪推していたり……。


 因みに私は可能であれば、セシル様のように頭を撫でて……コホン、失礼。


 何でもありません。


 では、失礼致します。


 ご機嫌よう。

 



 皆様こんにちは、作者のニャンパンダです。


 今更ですが、皆様の応援のお陰で無事に?カクヨムコン6を終えることが出来ましたので、その御礼を申し上げます。

 本当にありがとうございましたm(_ _)m

 

 と言っても、年末年始からの連続投稿と企画で忙殺され、実はその頃からカクヨムコンのことを忘れていたり……(^_^;)


 兎に角、今まで以上に沢山の読者様に本作を読んで頂けたり、一瞬ではありますが、ランキング恋愛部門で6位になったりと、いい思い出になりました。全ては読者の皆様のお陰です。


 ありがとうございました。


 

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