第124話「兄と弟②」
マク・フィリによる先程の話は一見すると『美しい兄弟愛によって暗黒面に堕ちた弟が救われた』という展開なのだが……。
勿論、実際はそんな美しいものではない。
では、検証の為に同じ場面を、今度はシャケ視点でもう一度見るとしよう。
それは私が遠征から戻り、父上達と話をした翌日のこと。
その時、私は怒気もあらわにフィリップの部屋(仮)へと向かっていた。
奴と話をする為に。
そして内心、
全くフィリップめ!余計な苦労を増やしやがって!
と、毒づきながら。
因みに何故、温厚で優しく清い心を持つ私が、こんなに苛立っているのかと言うと……。
それはフィリップの素行が原因だ。
実は昨日、私が遠征から帰還し、宮殿の建物内に入ろうとしたところで、メイド達が噂話をしているのを聞いてしまったのだが……。
それが非常に衝撃的な内容だったのだ。
曰く、実はセシルはパッド……じゃなくて……。
曰く、フィリップは何と……『性犯罪者』(未遂)だったのだ!
つまり皇太子が、次期国王が、変態ロリコン野郎(前科持ち)なのである。
全く、なんてことだ!
しかも最悪なことに、奴が己が欲望に負け、強○しようとした相手が……あろうことか最愛の義妹マリーとは!
断じて許せん!
あの変態ロリコン野郎め、よりにもよって可愛いマリーになんてことを……。
幸い未遂に終わったらしいが、無垢で純真なマリーのことだ……きっと心に深い傷を負ってしまったに違いない……。
ああ、なんて可哀想なマリー!
昨夜はきっと、ショックで一睡も出来なかったに違いない!
(※昨夜マリーは楽しく飲みに出掛け、泥酔しながら朝帰りしました)
全く、襲うならせめて、セシルかレオニー辺りにしておけばいいものを!
そうすれば取り敢えず、『変態ロリコン』という事実だけは隠せるし、それにあの二人なら確実にフィリップを返り討ちに出来るのだ。
何故なら、セシルは本人に戦闘力は無いが、護衛にスービーズ家の戦闘メイドや騎士団員が付いているし、レオニーは暗部だし、負ける要素が無いのだ。
きっと奴は返り討ちにされた上、ついでにアレをちょん切られることだろう。
……怖っ!
ではなくて。
兎に角、フィリップの野郎は、皇太子として、そして次期国王としての自覚が足りないんじゃないか!?
恥を知れ!
え?お前はどうなのかって?
それは……ほら、記憶とかアレだったし……悪い取り巻き達の影響もあったし……。
くっ!ごめんなさい、シャケ調子に乗りました。
謝るので今はスルーして下さい……。
閑話休題。
で、そのフィリップなのだが、変態ロリコンで性犯罪の前科持ちというのは、父上達が隠蔽するとしても、マズいと思うのだ。
それに恐らく、表沙汰になっていないだけで、奴に泣かされた幼女が大勢いる筈だし。
更にヤバいのは、そんな性癖を持ったまま皇太子になってしまうと、いつその爆弾が爆発するか分からないという恐怖に晒されてしまうのだ。
皆様は宮殿を出て行くお前には関係ないだろうが!このシャケが!と思われるかもしれないが、実は大アリなのだ。
今後もし、私が無印王子として市井で暮らし始めた後に、万が一奴が同じ犯罪を繰り返し、その事実が公になったら……。
奴は確実に廃嫡され、当然皇太子の地位も返上させられてしまう。
すると、どうなるか。
その結果、私が再び皇太子にされてしまうのだ!
はっきり言って、それでは困るのだ。
万が一そんな事態になれば、苦労して手に入れた私の自由が、一瞬にして失われてしまう。
まあ、フィリップの奴は、自らの欲望を満たせて幸せかもしれないが……。
だからこそ、自分の未来を守る為、私は今からやらねばならないことがある。
それは性根の腐ったロリコン王子を改心させること。
そして、その為に奴と話をすることだ。
だが、普通に話をするだけでは目的の達成は難しい。
そこで、だ。
私はわざわざ性犯罪者もとい、フィリップの為にプラスの材料を用意してきた。
それは、去勢と独房入り回避。
業腹だが、私は明るい未来の為、わざわざ父上と宰相に頭を下げ、渋る彼らに頼み込んで何とかそれを承諾させたのだ。
きっと父上達は、私の頼みをさぞかし不思議に思ったことだろうが……。
因みにこれは、フィリップと取引又は、奴を改心させる為の材料だ。
本当なら、手っ取り早くいきなり奴の顔面に衝撃のファーストブ○ットをお見舞いしたい。
その後、存分に罵詈雑言を浴びせてやりたいのだが、それでは奴がヘソを曲げて終わりだろう。
だから、逆で行くのだ。
つまり、北風と太陽作戦だ。
フィリップは今までの尋問で酷い目に遭っている筈だから敢えて優しく、そして暖かく奴に接するのだ。
それによって奴を改心させ、言うことを聞かせよう、ということなのである。
とは言ってみたものの……そんなに上手く行くのかなぁ。
正直、あまり自信は無いが……やるしか無いか。
私の明るい未来の為に!
……まあ、もし失敗したらレオニーでも連れてきて、恐怖と痛みで従わせるとしよう。
と、そんなことを考えていたら、いつの間にかフィリップが軟禁されている部屋の前まで来ていた。
私はドアの前で深呼吸を一つ。
そして、若干の緊張と共にノックをし、声を掛ける。
「フィリップ、入るぞ」
それと同時に私は返事を待たず、ドアを開けて中に入った。
どうせ返事は失せろ!か、シカトの二択だろうし。
すると、そこで最初に私の目に飛び込んできたのは、虚な顔のフィリップ……ではなく。
部屋を埋め尽くさんばかりの大量の花だった。
「!?」
……は?
なんだ!?この大量の花は!
パチンコ屋の新装開店かよ!
犯人は……ああ、赤騎士か、あの脳筋め!
折角、見直してたのに……。
ここの花代、全部奴にツケてやろうかな。
と、いきなり動揺しながらそんなことを考えていた私だったが、何とかそれを顔に出さないように取り繕った。
そして、無理矢理に穏やかな笑みを浮かべて見せた。
ふう、危ない危ない。
いきなり動揺したところなど見せたら、奴に付け込まれてしまう。
すると、そこでフィリップが私の方を見て、
「……これはこれは、マクシミリアン兄上、私を笑いに来たのか?」
と、不貞腐れた顔で言った。
こ、この野郎!
ちょっとイケメンで頭が良くてモテるからって……なに人を見下したようなツラで!
と、思わず叫びそうになるが、我慢我慢。
ここでキレては全てが水の泡だ。
そこで私は何とか自分を落ち着かせ、表面上は無理矢理に苦笑を浮かべた。
そして、心にも無いセリフを吐いた。
「とんでもない、お前のことが心配になって、様子を見に来たんだよ」
ああ、自分で言っておいてアレだが、悪寒がするな……。
するとフィリップは、
「心配?ハッ!心にも無いことを!……いや、そうか!念を押しに来たのか?安心しろ、言われなくても私はちゃんと皇太子になってやるから」
その言葉に対して奴はそう決め付けて勝手に納得し、皮肉げな顔で答えた。
ぐっ……下手に出ればいい気になりやりがって……ん?
皇太子になってやる?
あ、うん、ありがと。
それは朗報だ。
「そうか、取り敢えずその点は安心したが……話はそれだけではないのだ」
私は苦笑のまま、そう言った。
さて、いよいよ本題だな。
今からコイツに適当なタイミングで、去勢と独房入りが無くなったことを伝えるのだ。
そして、テンションを上げさせ、何とか真っ当に生きると約束させなければ!
と、私が考えていると、
「他に何があるのだ?……ああ、私を断罪しに来たのか?」
フィリップが今度は挑発的な笑みを浮かべてそう言った。
それに対して私は反射的に、その通りだ!このロリコンイケメン野郎め!ぶっ殺してやる!地獄へ落ちろ!と叫びそうになったが……。
そこで私は、キレちゃダメだ!キレちゃダメだ!キレちゃダメだ!と、まるでどこかの人造人間のパイロットのようなセリフを自分に言い聞かせて、必死に我慢した。
「断罪?いや、そんなつもりはないが……」
そして、取り敢えず私は表面上困り顔でそれを否定した。
が、しかし。
「惚けやがって!こんな惨めな姿になった私を馬鹿にしに来たのだろうが!」
それを聞いたフィリップは勘違いし、激昂してしまった。
むぅ、困ったな……。
本当に馬鹿にしに来た訳ではないのだが……。
私は内心そう言って、頭を抱えたのだった。
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