第105話「祝勝会①」

「……私も行きます」


 マリーから発せられた予想外過ぎるセリフに、アネ•リゼの二人は驚いた。


「「え?…………えええええええ!?」」


「何ですか二人共?私が行ったら嫌なのですか?」


 そんな二人の反応を見たマリーは、拗ねたように問うた。


「いや、そうじゃなくて……色々と大丈夫なの?」


「そ、そうですよぉ」


 聞かれた二人は、慌ててそれを否定した。


「色々?ああ、大丈夫ですよ。王宮から抜け出して、遊びに行くのはちょくちょくやってますし、お酒だって飲めますよ?」


 そしてマリーは、サラリととんでもないことを暴露した。


「マジ!?」


「ちょっ!?言ったらダメですってぇ!」


 アネットは純粋に驚き、マリーの護衛を担当するリゼットは立場的に大慌てだ。


「マジです。だから問題ありません」


 マリーはそんなリゼットを横目に平然と答えた。


「でも大衆向けの酒場に行くのよ?本当にそれでもいいの?」


 最近、仲良くなってマリーのことを、実の妹のように大切に思い始めているアネットが、心配して確認する。


「はい、むしろ街の酒場には、一度行ってみたかったのですよ」


「そう、じゃあいいんじゃないの?」


 その返事を聞いたアネットはそういったが、しかし、


「ダメですよぉ!マリー様ぁ、ちびっ子の王女殿下が城下で飲酒はちょっとぉ……世間のイメージとかぁ……」


 意外と真面目なリゼットは、尚も食い下がる。


「誰がちびっ子ですかコラァ!?私はもう十三歳です!それに、この国に『お酒は二十歳から』何ていう法律はないんですよ!それに貴方達だって十代でしょうが!文句ありますか!?ああん?」


 だが、それを言われたマリーは、キレ気味に言い返した。


「でも……」


 しかし、リゼットはそれでもまだ渋る。


「行くったら行くんです!私だって人間です!仲間と遊びに出掛けて心をほぐしたい日があるのですよ!それに……」


 と、そこまで捲し立てたマリーが急に雰囲気を変え、


「……何だか今日は……心が重いのです」


 とても疲れた顔で、正直な気持ちを吐き出した。


「……わかったわ。マリー、一緒にいこっか!」


「もぎゅ!」


 それを見ていたアネットは、そう言ってニィっと笑い、マリーを抱きしめた。


「そんなぁ、アネット様ぁ……」


 リゼットはまさかの相棒の裏切りに、情け無い声を上げた。


「まあ、いいじゃないの!フィリップとルビオンやっつけたお祝いよ!細かいこと気にしないで、パーっとやりましょうよ!」


「むぅ……でも……」


 かなり心が揺れているリゼットは、それでも職務上の立場から渋ろうとするが……。


「ふふ、ありがとうアネット。今日は私が奢りますから、遠慮なく飲んで下さいね!」


「「やったー!」」


 笑顔のマリーがそう言った瞬間、あっさりと陥落した。


「さあ、支度して出かけましょう」




 それから三人は一旦、各自の部屋に戻り、それぞれドレスとメイド服から普通の町娘のような格好に着替えた。


 その後、慌てる使用人達をマリーが躊躇なく金貨で引っ叩いて黙らせたあと、三人は秘密の抜け道から街へと繰り出していた。


 彼女達が街中へ出た頃には日は沈み、地平線付近に薄らと赤みを残すのみとなっていた。


 そして三人は、仕事帰りの人々で混み合う飲み屋街を歩いていた。


「いやー、宮殿のあんなところに抜け道があるなんて、驚きだったわよ!」


 アネットが興奮気味に騒いでいる。


「でしょ?でも、あれ本当は暗部の数人と王族しか知らない道なので、他人には秘密ですよ?」


 マリーは人差し指を唇に当て、ウインクしながら悪戯っぽく言った。


 実にあざとい。


「はーい」


「マリー様ぁ!いくらアネット様でも困りますぅ!」


 しかし、リゼットは慌てていた。


「いいじゃないですか、減るものではないし」


 マリーは全く取り合わないが。

 

「そういうことではぁ……」


「それよりマリー、お店どうする?」


 アネットもリゼットの嘆きをスルーし、店選びを始めた。


「ああ、そうですね……候補はありますか?」


「えーと、アタシとリゼットの行きつけは三つあって、ビアホールの『コマン•ドゥ』、居酒屋の『ラ•ムボー』、あと魚料理の『沈黙亭』よ」


 マリーが尋ねると、アネットは説明を始めた。


「ほう、それで特徴は?」


「ええっと、まずビアホールの『コマン•ドゥ』は、明るい雰囲気の気軽に入れるお店よ。店長は陽気なマッチョで、通称『大佐』と呼ばれているわ」


「は?マッチョ?大佐?」


「何でも彼は元軍人で、昔はコマ……なんとかっていう特殊部隊?っていうのにいたんだって。見た目は、未知の生物と戦ったり、サムズアップしながら溶鉱炉に沈んでいきそうな感じ。口癖は『アイルビーバック』よ」


「えーと、サングラスにコーンパイプを咥えた人ですか?」


「違うわよ、それは別のおっさん。しかも、アイシャルリターンだし」


「……」


「次に居酒屋の『ラ•ムボー』は、静かで落ち着いた雰囲気の店よ。店長は寡黙で影がある感じのマッチョ。見た目はおっかないけど、実は優しくて良い人よ」


「またマッチョですか?」


「彼も元軍人で、グリーン……なんとかっていう特殊部隊?にいたらしいわ。可哀想に、国の為に一生懸命に戦って、心に傷まで負ったのに、帰ったら自分の国で虐められたとか……」


「可哀想そうに……」


「更にお人好しで、たった一人だけで捕まった元上官を助けに、なんとかスタンっていう国まで行ったりしたらしいわ。あと、ボクシング凄く強いんだって。口癖は『オレは料理がしたいだけなんだ……』よ」


「じゃあ何で兵士になったんですか……」


「最後に魚料理の『沈黙亭』は、シックな雰囲気の異国情緒溢れる店よ。何故か全てのメニューに『沈黙の〜』が付くわ」


「沈黙にどんな意味が?」


「特に意味はないらしいわ」


「……」


「それで、話を戻すと店長はミステリアスだけどユーモアがあるマッチョよ」


「だから何で全部マッチョなのですか?」


「彼はあらゆる武術の達人で元軍人、昔シー……なんとかっていう特殊部隊?にいたらしいわ。で、その後よく知らないけど戦艦?でコックになって……」


「何故コック?」


「その時乗っていたミズ……何とかって船がシージャックされて……」


「忙しいですね……」


「犯人達を一人でブチ殺して船を取り返したんだってさ。口癖は『オレはキッチンでは負けたことがないんだ』よ」


「何でわざわざキッチンで戦っているのですか?」


「さあ」


「あと、店云々よりも、何で店長がマッチョばかりなのか、その方が私は気になるのですが?」


「え?ああ、ほら。アタシってお父さんがいなかったでしょ?だから、多分強くて優しくて、安心できるようなガッシリした人が好きなのよ」


「アネット……」


 理由を聞いたマリーが、少しシリアスな顔になりかけるが、


「あ!好きっていっても異性としてじゃないわよ?あくまでお父さん的な?だから、アタシはずっと王子様LOVEよ!」


 と、アネットは少し慌てて説明してから、リアンへの想いを少し恥ずかしそうに言った。


「取り敢えず……お義兄様がマッチョに負けなかったことを喜ぶべきか、ライバルが健在なことを嘆くべきか、それが問題です」


 それを聞いたマリーは某古典風に悩んだあと、再び店選びに悩み出した。


「うーん、どの店も物騒な匂いしかしませんが……でも、何だかどこも楽しそうですね。迷ってしまいます」


 と、そんなマリーを見ていたアネットが、単純だが確実な解決策を思いついた。


「あ!そうだ!だったら全部行きましょうよ!梯子するの!」


 すわなち、『全部行く』というアイデアを。


「ええぇ!?アネット様ぁ!?」


 リゼットはまたまた派手に驚き、慌てた。


「大丈夫よ、私達お酒強いし、時間もあるし、それに……」


「それに?」


「マリーの奢りだし」


 アネットはドヤ顔で言った。


「貴方ね……」


 それに対してマリーは呆れ顔で呟いた。


「冗談よ、冗談。折角夜の街にマリーと遊びに来たんだから、色々見て、楽しんで……いい思い出を作りたいじゃないの!」


 そして、再びニィっと、アネットスマイルが炸裂した。


「アネット……」


 彼女の言葉を聞いたマリーは、若干目を潤ませながら呟いた。


 一方、隣のリゼットは、


「わかりましたぁ、みんなでぇ楽しみましょうぅ!」


 何かが吹っ切れたらしく、テンション高く叫んだ。


「よし!そうこなきゃ!……じゃあ、まずは『コマン•ドゥ』へ行くわよ!」






 皆様こんにちは、にゃんパンダです。


 昨日から募集させて頂きましたマリー達の飲み会トークの内容ですが、沢山のリクエストをありがとうございましたm(_ _)m


 明日から三話ぐらいの予定で、リクエストして頂いた内容を元に、話を書く予定でございますので、宜しくお願いします。


 ただ、私の予想よりかなり多くのリクエストを頂きまして(大変感謝しております!)、全てを反映させることが難しいかもしれませんので、その点だけはご了承下さいませm(_ _)m


 お読み頂き、ありがとうございました。

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