第68話「断捨離①」
これは宮殿の庭でヤバい連中が激闘を繰り広げていた頃、別の場所で安全かつ平和に作業をしていた男の話である。
皆様こんにちは、マクシミリアンです。
今日は第三話以来、久しぶりに自分の私室に来ています。
目的は『断捨離』です。
つまり、私物の整理。
では何故、今そんなことをするのかと思われることでしょう。
答えは簡単、お金です。
正確には、廃嫡後に生活をする為の資金の為です。
皆様は覚えていらっしゃるでしょうか?
七十話ぐらい前に私が、倉庫代わりに使っている部屋に山積みになっているガラクタを売れば優雅な生活をおくれる筈だ!、と言ったのを。
つまり、そういうことなのです。
で、いよいよ廃嫡が近づいてきたのでそろそろ手を付けよう思い、今日はレオニーやピエール、その他数名の暗部員を連れて作業に来た訳なのです。
え?何で赤騎士がいないのかって?
そんなの決まっているではないですか。
いい加減アレの存在が面倒くさくなって断捨離の手始めにリストラしました……すみません、嘘です。
まあ、若干面倒いのは本当ですがね……。
で、理由は万が一ここで暴れられたら物が壊れて大変なのと、彼女は暴走気味ではありますが、いつも一生懸命働いてくれているので、少し休みをあげようと思った次第です。
さて、では始めましょうか。
ガラクタ改め、賄賂の山の整理を!
そう意気込んで倉庫部屋に入った私の目に飛び込んで来たのは、見上げる程の高さまで積み上げられた賄賂の山。
これは思ったより大変そうだ。
ああ、やはり横着はするものではないなぁ。
これらを受け取っていた当時は中身も見ずに侍従に渡して、倉庫へ放り込んどけ、だったし。
だから、実は何があるのかよくわからなかったりする。
でも、まあ賄賂だし、流石に価値がある物だとは思うが……。
そして改めて思う。
ああ、せめて中身ぐらい見ておくのだったなぁ、そうすれば今、楽だったろうに。
はぁ、愚痴っても仕方ない、取り敢えずやるか。
「では皆、始めようか」
「「「はい!」」」
始める前からテンション下がり気味な私とは対照的に、忠義に厚いレオニー達の返事は素晴らしい。
そして私は仕分け作業を始めた。
因みに内容は、まず倉庫から物を運び出す。
次に選別、箱に入っている物は中身を確認する。
そして、暗部を通して売却する、と言う手筈だ。
流石に自分で街に売りに行くわけにはいかないし、そもそも何処で売ればいいのかもわからない。
残念ながらここにはヤ○オクもメ○カリもないし。
さてさて、ではまず手前にある箱から適当にやるか。
そして私は一番手前にあった箱を掴んだのだが……、
「うわっ!」
何だこれ!?重っ!
取り敢えず床に下ろして、と。
「驚いたな、この重さは一体?」
「殿下!大丈夫ですか!?」
と、ここで私の声に反応したレオニーが慌てて駆け寄ってきた。
「ああ、大丈夫だ。予想外に箱が重かったのでね」
「左様でございますか……ああ、なるほど」
苦笑しながら応えた私にレオニーは何処か納得したように言った。
「え?何かわかるのか?」
「はい、確実ではありませんが、大体想像はつきます」
スパイすげー。
「ほう。それで?」
「はい。箱のサイズからして恐らくワインが二本といったところでしょうか。あとは……」
「あとは?」
「あ、折角ですから開けてみましょう。その方が楽しいと思います」
珍しく悪戯っぽい表情を浮かべたレオニーに、はぐらかされてしまった……お預け?
あと、ちょっと可愛いな。
「ピエール!」
「はい、レオニー様」
レオニーに呼ばれたピエールは、すぐにバールを持ってやってきた。
そして、彼が手際良く木箱を開けるとそこには……予想通りワインが二本入っていた。
「お、正解だな」
「はい、ですが面白いのはこの後でございます。殿下、ワインを退けて頂けますか?」
なるほど、自分で正解を確認しろと言うことか。
「ああ、わかった」
私は言われるがままにワインを取り出した所で、それに気付いた。
おや?箱の底が光った?
続いて緩衝材を退けるとそこにはなんと……。
「!?」
眩いばかりの輝きを放つ金貨が分厚く、びっしりと敷き詰められていた!
「なっ!?何だこれは!」
「賄賂ですね」
私が驚いた所で横からレオニーがニヤリとしながら補足してきた。
いや、見ればわかるけど……露骨過ぎじゃないか?
お代官様?……いや、王子様か。
そして、更にレオニーは続けた。
「全部十万ランス金貨ですね。だとすると……五千万ほどありますね」
「っ!?」
マジか!?
やったー!
これだけでも暫く遊んでくらせるのでは?
と言うか、
「もしかして、他の箱の中も?」
「はい、殿下のお考えの通りかと」
え?ってことはもしかして……数十億、いや、下手したら百億近くいくんじゃないか!?
うん、王子って意外に儲かるな。
まあ兎に角、これで資金面は安泰だ。
あと、これは即ち明るい未来が見えて来たと言うことだよな!?
ああ、何だか作業が楽しくなってきたぞ!
さあ、続きを……あ、そうだ、その前に。
「レオニー、皆んな。今日は手伝ってくれてありがとう。これは気持ちだ、皆でやってくれ」
そう言って私は取り出してあったワイン二本をレオニーに手渡した。
そう、こういうちょっとしたところで良い上司アピールをして、部下の信頼を得ていく作戦だ。
「殿下!?本当に宜しいのですか!?」
だが、何故か予想に反して珍しく、そして酷く慌てたレオニーが問うてくる。
はて?何だろう?たかが金貨をカモフラージュする為の安ワインだぞ?
何か古くてラベルもボロボロだし。
「勿論だ。これは日頃から頑張ってくれている君たちへの感謝でもあるし、遠慮するな」
ついでに無料のイカサマ王子スマイルもサービス。
すると部下達は、
「「「ありがとうございます!」」」
非常に喜んでくれた。
何故か目に涙まで浮かべている者までいるし。
皆んなそんなにワインが好きなのだろうか?
こんな安酒?でここまで喜ばれると逆に何か申し訳ない気がするな。
あと、特にレオニーは感極まっているように見える。
因みにレオニーの内面は、
(一本数百万はするロマネ=ペトリュスのビンテージワインを二本も下賜してくださるとは!こんなに私達のことを大切に思ってくださって……ありがとうございます殿下!やはり何処かの人使いの荒いちびっ子とは大違いですね!)
こんな感じである。
「?……まあ、いいか。続けよう」
次は適当に目についた長細い物体を手に取り、巻かれていた布を外した。
すると中から出てきたのは、
「お、これはもしかして象牙か?」
「はい、中々の逸品ですね」
レオニーが同意する。
そして更に周囲を見ると、似たような包みが沢山あった。
「あ、こっちにも、あっちにもあります殿下」
「殿下、他にもありますよ」
ピエールや他のメンバーも見つけていたようだ。
で、結局合わせて三ダースぐらい出てきた。
ああ、こんなに沢山……象さん達、可哀想に……。
取り敢えず心の中で象さん達に手を合わせつつ、象牙の山を値踏みする。
うん、高く売れそうでありがたい……が、あ、でもこれ売ったりしたら逮捕されてしまうのでは?
確かワシントン条約とか……って、この世界では大丈夫なのか。
「よし、象さんありがとう。さあ、次だ、次」
とか、やっていたら、私はここで何やら外が騒がしいことに気づいた。
今日は何かイベントでもあったかな?
「なあレオニー、何やら外が騒がしくないか?」
取り敢えず聞いてみるが、
「気の所為です」
笑顔のレオニーはそう答えた。
「え?だってさっきから金属がぶつかり合うような音とか、悲鳴とか、俺を踏み台にした!とか聞こえる気が……」
「気の所為です」
再びレオニーは完璧な笑顔で答えた。
だが、やっぱり外は騒がしい気が……。
「ほら今、待て貧乳!とか聞こえ……」
「ですから、気の所為です」
笑顔。
「……はい」
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