第96話 獣人国近衛隊と剣魔サイコ

獣人国国王のパンジャが土下座しているのを後目しりめに、モモカはソウタに小声でヒソヒソと相談し始めた。


「この後、どうするの?」


「王都に行くのは無しだな。国王はまだしもその配下は信用出来ない」


「それは当然よね」


「このまま、他国へ行こう」


「報酬はどうする?」


「この場で貰えるモノだけ貰おうか」


「分かった」


話は纏まりモモカが国王パンジャに告げる。


「貴方達を信用する事は出来ないので、私達は王都には行かない。救命の御礼を望むなら今ここで貰えるモノだけとしたい」


(くっ、これでは多くのペスト患者を救う事は出来なくなった。………やむを得ないか。全く王太子と宰相は余計な事をしおって)


「分かりました。誠に残念ではありますが、今、手持ちの金貨と、………このマジックバッグを受け取って下さい。しかしこれだけでは明らかに不足です。聖者様に何かあれば獣人国は力になります」


そこに、獣人国近衛隊が追い付いて来た。


「陛下!」

「オノレ! 陛下に土下座させるとは不敬であるぞ」

「許さん!」


「ん、あ! ま、待て───」

国王パンジャは近衛隊の声を聞いて慌てて立ち上がり止めようとしたが………。


その横を風の様に大剣を振り翳し、駆け抜けるサイコの影が国王パンジャ目の片隅を横切る。


「敵即斬!」

サイコは抜剣し近衛隊の先頭を走る獣人の首を刎ねた。


「抜剣した者は明らかに敵! お前らも敵だな」

大剣を両手に構えるサイコが威圧を発する。


近衛隊の先頭を走る者はその中でも体力があり強者だった。その者達を一瞬で葬り去ったサイコの実力を目の当たりにして、立ち止まり動揺する後続の近衛隊達。


「むむ、………土下座は我が自分の意思でしたもの。聖者様達に何の問題もない。何人たりともに我の命を救った聖者様達に手出しする事は罷り成らん!」

国王パンジャは近衛隊に大声で告げる。


「サイコさんはペストの現況である魔人を倒した強者です。追手のドグラとマグラも瞬時に倒しました。敵対する者に容赦しません。敵対行動を取るなら覚悟して下さい」

モモカも近衛隊達に警告した。


「え! 魔人を?」

「ドグラとマグラが?」

「本当だ。ドグラとマグラが死んでいる」

「魔人を本当に倒したのか?」

近衛隊達がザワザワと騒ぎだし、国王パンジャも目を見開く。


「この残骸がペストを振り撒いた魔人です」

モモカが悪霊アサグの残骸を指差す。


「おお! 禍々しい魔力の残滓が見える。本当かも知れんぞ」

「ならば、獣人国を救った英雄なのか?」


「はん、英雄なんて称号はいらん」

そう言ってサイコは殺した近衛隊の遺体をゴソゴソとまさぐる。


「む! 何をしている。死者への冒涜は許さんぞ」


「ふん、ならばどうする、俺に敵対するか。いいか、倒した敵の物は俺の物。それが俺の流儀だ。………何だコイツも所持品はショボいなぁ」


「そんな、………死者を穢す行為は人道的に許さざる事だぞ」


「ははは、獣人族の流儀は勝者に従うと聞いている。文句があるなら掛かって来い。俺に勝ったら寝言を聞いてやる」


「ぐぐっ………」

近衛兵の1人がサイコを睨むが、反論は出来ずに悔しそうに歯を食いしばる。


だが、


「おい! 誰を睨んでるんだ。文句があるなら掛かって来いって言ってるだろ。それとも何か、掛かって来る度胸もないクセに影で悪口を言う情けない奴か?」

サイコは近衛兵が気付かない速度で、一瞬のうちにその髪を掴み地面に顔を押し付けた。


「くっ、は、離せ!」

近衛兵は身体を捻りサイコの手を払うと剣に手を掛けた。


ゴロリ………。


サイコに首を刎ねられ近衛兵の首が転がった。


「コイツも敵だな」


唖然とする近衛隊と国王パンジャを横目に、サイコは今首を刎ねた近衛兵の遺体も弄り所持品を探す。

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