第83話 獣人国王都
森が見えてきた。
「やっと王都に着いた!」
獣人国王女ブリュンヌが叫んだ。
「へ? 森しか見えないよ。どういうこと?」
ソウタは目を丸くしてペストマスクの従者に尋ねる。
「あの森こそが我が国の王都なのです」
獣人国の王都は森の中にある。いや、森そのものが王都である。獣人達はその強力な身体能力があるため、城壁で囲む町作りはしない。
「人は石垣、人は城」かの武田信玄の言葉のように、究極の戦闘民族である獣人達は守る事を良しとしない。戦いは何時でも攻めるのみなのだ。
「ふへぇ、森が王都なんだぁ」
「さあ、急ぎましょう」
ブリュンヌに急かされて、ソウタ達は森に向かった。
森に続く道の前には大柄の熊の獣人とサイの獣人が完全武装で立ち塞がる。
「この先は獣人国王都だ! 今は誰も通さん、サッサと帰るが良い」
槍を構えた熊の獣人が大声で叫ぶ。
「はぁ? そこを退け! 俺は王女ブリュンヌだ!」
ブリュンヌはペストマスクを脱いで顔を見せると熊の獣人が構える槍を掴んだ。
「お、王女様! これは失礼致しました」
槍から手を離し跪く獣人達。
「うむ、父上、母上は存命か?」
「は、はい。伏せってはおりますが、存命とお聞きしております」
跪くサイの獣人が応えた。
「良かったぁ、間に合ったか」
ホッとひと息のブリュンヌ。
「ささ、聖者様、参りましょう」
ブリュンヌはソウタに振り向き森の中に招こうとする。
「ブリュンヌ様! お待ち下さい」
熊の獣人とサイの獣人が立ち上がりソウタ達を遮る。
「今、王都はロックダウン中、他国の者はいかなる理由であっても中に入れるなと宰相様から言われております」
続けて熊の獣人が言う。
「しかも、その者達は戦いも出来ない人族の鼻垂れ小僧と娘。王都に入れる訳には行きません」
サイの獣人はソウタとナナミ、モモカにチラリと目をやり、ブリュンヌに言う。
その言葉にちょっとカチンときたソウタ。
(泣いて頼まれたから、しょうがなく来たのに、そんな事言われたら助ける気も失せるよ)
「そうかぁ、それはしょうがないね。ロックダウン中だし、他国の者だし、鼻垂れ小僧だし、………帰ろうか」
ソウタはそう言うと、モモカとナナミに目配せして帰ろうとする。
「そうね」
モモカもソウタに従う。
「で、でも………」
ナナミはちょっと躊躇いながら、ソウタの後に続こうとする。
「聖者様! お待ち下さい」
ブリュンヌはソウタの腕を掴んて引き留める。
「ぐぬぬ……、ロックダウンは知っている。知らぬ訳があるかあ! その中で態々連れて来た意味を考えろ! この方達は聖者御一行だ。父上、母上の治療が出来るのだ。そこを退いてもらおう」
怒りに手が震えるブリュンヌ。
「そ、それならば、宰相様に確認致しますので、ここでお待ちを」
ブリュンヌが怒るのを見てオロオロしながら、両手のひらを前に出してなんとかしようとする熊の獣人。
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