第76話 ペスト医師1

獣人国に近い名も知らぬ町でペストが発生した。


ペストが発生した町は他の町や村に伝染するのを防ぐ為、見放されて封鎖されるが、この町にたまたまソウタがいたお陰で事なきを得る事が出来た。


発生直後に対応した事、外から来たソウタが連れて来た盗賊達が発生源であった為、感染者が少なかった事で早期に解決出来たのだ。


その後、ソウタはネズミを宿主としたノミが媒介する事を周知し、町中総出でネズミ退治と町を清潔に保つ大掃除を行った事で、町の中はゴミ一つ落ちていない綺麗な景観と変貌した。


この結果、町の治安が良くなった事、ライゴーの眷属であるネズミが町に近付けなくなり、ビーカル、ライゴー達がソウタ達の監視が出来なくなった事をソウタ達は知らない。


町の人々はソウタを「聖者様」と呼んで下にも置かない大歓迎だったので、ソウタ達にはこの町で一番の宿屋のVIPルームに無料で宿泊していた。


「ペストも終息したからそろそろ町を出ようか」

豪華で広い最上級の部屋で朝食を食べながら、ナナミとモモカに話掛けるソウタ。


「ふにゃぁ」

モグモグ……。

だらけきってるナナミが変な声を出す。


ナナミは毎日美味しい食事とおやつをお腹いっぱい食べて、運動もしないのでお腹が出てきたようだ。


「そうですね。いつまでもこんなだらけた生活では身体に良くないです」


モモカは朝食を食べ終わりお茶を飲みながら、そんなナナミのお腹を見ている。


ドリアードのクロリスはニコニコと、テーブルの上で食事をしている雷獣のリャンゾウと青い鳥のブルを見ていた。


(誰か来るキュ)

リャンゾウが念話でソウタに報せる。


「誰か来るみたいだ」

ソウタの言葉にモモカは即座に反応し、湯飲みをテーブルに置くと扉の前に走る。


「ふにゃ?」

ナナミは相変わらずだ。


ガタン!


扉が急に開いた。


部屋に慌てて入って来た宿の従業員。


モモカは従業員の腕を捻って逆を取り、ナイフを首筋に当てた。


「ひゃああああ」

従業員は横目でモモカを見て小さい悲鳴をあげる。


「ノックもしないで部屋に入るなんて何の用なの?」


「ひぇっ、す、すいません。緊急の事だったので……」


「だ・か・ら! 用件を言いなさい!」

モモカは従業員の耳元で荒々しい声で尋ねる。


「は、はい。町にペスト医師達が来て、聖者様を出せと騒いでいます」


「「「ペスト医師?!」」」

ソウタとナナミ、モモカは声を揃えて叫ぶ。


「ペスト医師って何?」

モモカが従業員に問う。


この世界のペスト医師とは、医師とは名ばかりの荒くれ達。ペストの町や村を実力で強制封鎖する者達。


国と契約し、獣人国では殺傷権も持っていて反抗する人々を処罰する事が出来る存在。


ペストに感染する危険があるので、ペスト医師は危険な職業だ。好き好んでペスト医師になる者はいない。


国でも有能な者を、そんないつ死ぬかも分からない仕事をさせる訳にはいかず。かと言って実力がない者にも任せられず。結果、金に困った荒くれ者が高額の報酬につられて命を掛けてペスト医師になるのだ。


明日死ぬかも分からないそんな荒くれ者達は、とにかく傍若無人な存在で民衆は恐れ、ている。

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