第62話 居城の門前
ビーカル辺境伯の居城の門前。
「お止まりください!」
門番の騎士がシアウェル伯爵の馬車を止める。
「む、門番如きが何用だ」
馬車の中から門番の声を聞き、シアウェル伯爵の眉間に皺が寄る。
「閣下の到着の確認と思われます。説明してきます」
と言って従者が馬車を降りようとした時。
「良い。俺が直々に行ってやる」
従者の肩を掴み馬車に留まらせ、馬車を降りたシアウェル。
「俺は伯爵のシアウェルだ! この馬車の紋章を見れば一目瞭然であろう! 先触れも出して本日の到着を知らせているはず。一々止めるな! 煩わしい!」
馬車を降りるなり大声で威嚇するシアウェル。
「は! シアウェル伯爵様ご本人で御座いましたか。これは失礼致しました。しかしご本人の確認の必要がある故、……申し訳ありませんが──」
シアウェル伯爵の顔を知らない門番は規則通りの対応をしようとしたが。
と言うか、これが普通の対応である。貴族を装った賊の可能性もあるし、居城に入る人数やその人達の確認は必須である事から、確認もしないで城に通す門番などいないのだ。
「な~に~! 本人がそう言ってるのだ。ぐだぐだ言うな! 不敬であるぞ!」
ドスッ!
シアウェル伯爵は門番を蹴り飛ばした。
そしてシアウェル伯爵の護衛も直ぐさま同行の馬から飛び降りて、門番とシアウェルの間に走り寄る。
門番はシアウェル程度の蹴りなら余裕で躱せるのだが、「不敬」と言われた為、蹴りを躱さずに甘んじて受けた。
「がははは、この程度の門番しかいないのか! やはり辺境の田舎者は鈍くさいなあ」
その言葉に門番達は、込み上げる怒りを隠せず身構えた。
一触即発。
門番とシアウェルの護衛の騎士達が睨み合う。
シアウェルはリーキヤ公爵の命令で王命を伝えに来ていた。
リーキヤ公爵はビーカル辺境伯に対して恨み骨髄に徹している。
ビーカル領で利益を得られず、ヤコイケ印の回復薬も自由に出来なかった。隣国との戦争が敗勢になっているのもビーカルの所為だと思っている。
その結果王国も自分の立場も悪くなっているのだ。自業自得なんだけどね。
そのリーキヤ公爵から指示されたシアウェル伯爵は、王命に逆らえないであろうビーカル辺境伯に喧嘩を売って良いから困らせてこいと言われていた。
ここで争いになった場合、王命を伝えに来た使者達を武力で制したビーカル辺境伯の責任が追及される。
例えシアウェル伯爵の行動に問題があっても、リーキヤ公爵は如何様にも報告内容を操作出来る。
結果として、シアウェル伯爵に対してビーカル辺境伯が暴力を振るった事実があれば良いのだ。
そして、その事実があれば罰として、ヤコイケ印の回復薬を無償で入手したり、罰金の支払を負わせたり出来る。
シアウェル伯爵もその事は承知しているので、自分の配下の者が何人か傷付けられても平気だ。
まさか、貴族である自分が傷付けられる可能性があるとは露知らず……。
「門番如きが貴族である俺に口答えするなど不敬である。引っ捕らえよ!」
シアウェル伯爵は護衛の騎士達に命令した。
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