第18話 僧侶の思い


 小学校までは喘息で休みがち、中学高校に入っても体が小さく自分に自信がなかったこともあり、大学生になっても親友と呼べる友達はいなかった。


 一人娘の自分を大切に世話してくれた両親は交通事故で1年前に他界し、叔母の世話になりながら一人暮らし。


 都内にある美術系の大学生活も大好きな絵を描く時だけが充実した時間であり、それ以外の時間は誰とも接することなく過ごしていたのである。


 そんなワカナにとって「ソーマジック・サーガ」というゲームは、心の隙間を埋めてくれる初めての存在でもあった。


 ゲームは自分の好きなアバターを使えるし、ゲーム内の自分は現実世界の自分ではなく自由自在に動き回ることができる。


 次第にワカナは僧侶のエキスパートとしてゲーム内の仲間から頼りにされ、数々のクエストでその名は知れ渡っていった。


 当初、ソーマジック・サーガのイベントである「伝説の宝玉」も、その特典である「リアル・ソーマジック・ギア」にも興味はなかった。しかしゲーム内の仲間の後押しがあってイベントに参加。


 そして「伝説の宝玉」クリア後にこの惑星エヌに来たわけだが、まさかの状況にワカナは愕然。ゲームで使っていたアバターが使えなかったことが判明したのだ。


 ワカナにとってアバターではなく自分自身で行動することは、もっとも避けたいもの。やはりその現実に耐えられず、街に出ても閉じこもり気味になっていたのである。


 そんな自暴自棄になりかけた自分を救ってくれたのは、召喚獣のクロミであり、そのクロミが探し出してくれた魔法使いのエリだった。


 エリは同じ日本人のマッキーとともに行動していたが、ちょうど僧侶と魔法剣士を探していたという。そして意気投合しダンジョンに潜ってレベルを上げ、少しずつ自分に自信を持ち始めた時に、あの悲劇に襲われたのである。


 あの時は傷つけられた両足が動かず愕然としたが、当時の自分は「死」というものがどういうものか、何も理解していなかった。


 日本に戻っても、すでに両親はいないし親友もいない。おそらく誰も自分のことなんて気にも留めないだろう、としか考えていなかった。


 ただ、あの鳥の化け物を一撃で倒したサトルには、一瞬で心が奪われた。自分たちのピンチを救ってくれた白馬の王子様にも見えたのかもしれない。


 それは人生で初めての感情であり、それが「恋心」だと自覚するのに多少の時間を費やしたほど。


 その後もドキドキして目を合わせることができなかったし、会話もおぼつかなかったと思う。


 4人でダンジョンに潜った当初は、自分の心が弱く足手まといになったところもある。そんな自分にも優しく接してくれたサトルが、次第に自分の中で唯一無二の存在になっていた。


 自分の中で日本に絶対に戻りたいという思いはそれほど強くない。それよりも今はこの3人に捨てられないように、精一杯頑張って付いていくことを決めた。


 このエヌでの生活は確かに非日常的であり不安も大きい。それに死と隣り合わせという現実もある。


 それでも充実した日々を過ごせているのは、サトルの存在とこのパーティーがあるからだろう。


 永遠に続くははわからない。ただ今は、みんなの目標のために頑張っていきたいと思う。




 11階層へ挑戦するこの日、ワカナは気を引き締め皆が待つ場所へ向かった。



「戦士の願い」へつづく

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