保養地・カモンリス

第85話 海沿いの街

 二回目の遠征は南部のエスタ・ダモレイラと呼ばれる場所だ。

 街道汽車フェロヴィアで南下しつつ途中の街で探索をしてきたが、今のところ特になにも起こらなかった。

 結局、街道汽車フェロヴィアの終着点であるカモンリスまでたどり着いてしまって、ここを拠点に周囲の探索をしている。


 エスタ・ダモレイラ方面はこれまた初めてくる場所だが

 ……海の近くであることはアルフェリズと同じではあるが、ちょっと寒々とした雰囲気が漂うアルフェリズとは違う。


 照り付ける太陽は明るくて海もアルフェリズより青く感じる。

 砂浜も真っ白い


 カモンリスは王族の夏の離宮もほど近い街らしいが、確かに暖かく明るい太陽と美しい海と美味しい海産物は王族の離宮が建設の場に選ばれるのも分かるな。

 ただ、俺たちは遊びに来たわけじゃないから景色を眺めている場合じゃないんだが。


 

「どうも漠然としているな」


 宿の外で海を見ながら、明るい太陽には似つかわしくないうんざりした口調で団長がぼやいた。

 今日はルーヴェン副団長やクレイ、彼の旗下が探索に出ていて、俺やテレーザ、アグアリオ団長は街で待機組だ。


 今回の討伐は探知系の儀式魔法で場所を決めたらしい。

 ただ、あちこちを探索してはいるものの今のところ遭遇情報はない。

 魔族どころか魔獣すらいない。

 

「そういえば、なんで魔族が現れるんですかね」


 俺達が倒したヴェパルだけではなく、各地に魔族が現れているらしいというのは聞いていた。

 個人的には半信半疑だったし、こんな師団を編成する必要があったのかと思っていたが。

 実際に先日は魔族と遭遇したから、これ自体は本当なんだろう。


「儀式魔術師たちが調べているようだな。まあどうでもいい」


 本当に関心が全くないって感じでアグアリオ団長が言う。


「我々の仕事はやつらが現れたら殺す、それだけだ。ほかの事は他がやるだろう」


 そんな話をしているところで、通りの向こうからルーヴェン副隊長が帰ってくるのが見えた。

 クレイの姿も見える。暑い中でも赤い仮面はそのままだ。

 全員が団長に礼をした。


「どうだ?」

「なにもありません」


 ルーヴェン副団長が短く言う。端正な顔には流石に疲れが見えた。


「無駄足か?」

「かもしれません」


 ルーヴェン副団長が答えて、アグアリオ団長が舌打ちした。 

 暫く団長が海の方を見て何か考え込む。 

 

「致し方ない……撤収だ」


 ルーヴェン副団長が頷いた。


「主力は明日の昼の街道汽車フェロヴィアで引き上げる。ルーヴェン、後処理は任せる。少し休んでから来い。いいな」

「はい、団長殿」


 ルーヴェンが言って団長が宿の方に引き返していく。

 今回は無駄足か。



「空振りか」


 テレーザが少し不満げな口調で言う。

 手柄を立て損ねた、くらいの感じなんだろうか。


「こういうこともあるよな」


 魔獣の討伐は目撃とかそういうのがあって依頼が来て、それを冒険者が受けるという流れになる。

 だから冒険者は行ってはみたものまったく何もなかった、ということはあまりない。


 だがこの師団は目撃情報だけじゃなく、探知系の儀式魔法で魔族の出そうなところを当たるという感じで動いている。

 探知魔法が無駄だってこともないんだろうが、万能というわけじゃないだろう。


 先日戦ったやつについては魔法理論ロゴスの学者の方から情報が上がってきた。

 名前はヴァゼルフォーン。

 奴隷頭なる異名を持つ、トロールやオーグルを使役する魔族らしい。あの強力な再生能力とかもあいつの能力の一環らしい。

 ヴェパルよりは格下らしいが、あんなのと定期的に戦うのはぞっとしないな。


 魔族が厄介なのは事前の情報が何もないこともある。

 冒険者の討伐は、魔獣が現れてそれを受けて行われる。

 魔獣との戦いの経験は冒険者ギルドに蓄積されているから対策も立てれる。

 相手が何かわかれば心構えも出来る。


 だが、魔族の能力は謎だらけだ。

 個体差も相当大きいようだし、ぶっつけ本番で戦わなければいけないというのも厄介な点だな。


 テレーザはまだ若干不満げに何かつぶやいている

 魔族がいつもゾロゾロと出てもらっても困るし、成果がないというのもなんとなく腹立たしいのは確かだ。

 ただ、魔族がいなかったならそれに越したことはないと思う。


「で、ライエル。明日はどうするのだ?」

「どうすると言われてもな」


 この町のことを俺は何も知らないから何をするもあったもんじゃないんだよな。


「オードリーたちの土産を買うくらいだな」

「ふむ。ならライエル、それが終わったら明日は私と泳ぎに行かないか?」



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