第62話 ヴァーレリアス家のお家事情・上
ドアを開けて入ってきたのは、豪華な青の衣装をまとった男だった。
年のころは40過ぎって所だろうか。
長めの銀髪が何となくテレーザやイザベルさんと似ている。ちょっと後退していて額が広い。
顔立ちは整っているが、
ロングコートの様な長めの青い衣装は刺繍や装飾が入っていて豪華だ。
ただ、ぽっこりと出っ張った腹が白いシャツを突き出していて、服が立派な分滑稽な感じだ。
その後ろには3人、若い男が付き従っている。
一人はそのオッサンと揃いの青、あと二人は赤だ。何となく護衛とかそんな感じだな。
「フェルナン叔父様」
「グアラルダ卿」
テレーザとイザベルさんがソファから立ち上がって頭を下げた。一応俺もそれに倣う。
そいつがちらりと俺の方を見た。
一瞥だけだったが感情は伝わってきた……露骨な見下しだ。
「イザベル、勝手な真似をしてもらっては困るな。我が兄が不在の今はヴァーレリアス家の責任を持つのは当主代行たるこの私だ。分かっているだろう?」
フェルナンとやらが念を押すように言うと、イザベルさんが俯いて黙った。
満足げにフェルナンが頷いて今度はテレーザを見る。
「テレーザ、アレクト―ル魔法学園の主席を取ったことは素晴らしいことだ。さすがヴァーレリアス家の娘だけある……だがお前の能力が時代にそぐわないことは変わりはない。分かっているだろうな」
「ですが……叔父様」
「お前がヴァーレリアス家のためにできることは、家に入り子を生むことだ。しかるべき血筋の者とな。
よいか、私は我が兄の代わりにお前を心配して言ってやっているのだぞ」
テレーザの言葉を遮るようにフェルナンが言う。
言っていることが正しいかどうかはさておき……押しつけがましくて、なんというか非常に癇に障る口調だ。
「だがせっかく主席を取り宮廷魔導士団への招聘も受けたのだ。それは汲んでやらねばなるまい。栄誉なことだからな」
フェルナンが勿体ぶるように間を置いて後ろの三人に目をやった
「テレーザ。お前にはこの三人を護衛としてつけてやろう。2人は優秀な成績で冒険者の養成施設を出た前衛だぞ。もう1人は我が息子マヌエルだ、会ったことはあるな」
「やあ、テレーザ。僕が君を守ってあげるよ。安心してくれ」
後ろにいる男のうち一人がにこやかに笑って小さく会釈した。
フェルナンと同じような青のロングコートのような衣装を着ているが、息子だったわけか。
テレーザよりは少し年上、ロイドくらいだろうか。
フェルナンと顔立ちは似てはいるが、不摂生丸出しのフェルナンと違ってそれなりに鍛えている感じはするから雰囲気は大分違う。
ちょっと癖のある巻くような銀髪が目をひくが、この髪は血筋らしいな。
俺の方をちらりと見て、露骨に見下すような笑みを浮かべた。
中々に感じの悪い奴だ。
「いえ、叔父様……私には、もう……この人が」
「なんだ、当主代行の私の言葉を聞けぬと言うのか?私の言葉はお前の父、アマラウの言葉に等しいのだぞ」
恐る恐るって感じでテレーザが言うが。
父の部分を強調するようにフェルナンが言って、テレーザが俯いた。
「ヴァーレリアス家の一人娘であるお前の護衛が下賤な冒険者である必要はない。
格式あるものには格式あるものが護衛に付くべきだ」
普段は堂々としているテレーザだが今日は俯いて何も言い返せない。
フェルナンがこっちを向いた。
「ということだ。お前のような時代遅れの練成術師にテレーザの護衛を任せるわけにはいかん。叙勲の申請も取り下げておく。
身の程をわきまえてアルフェリズで日銭を稼いで暮らせ。よいな」
これがアステルが言っていた面倒事ってわけか。
どういう力関係なのか分らんが、当主代行には口をはさめないってことなんだろう。アレクト―ル魔法学園の主席であっても。
フェルナンとやらの偉そうなだけで緊張感のない顔を改めて見る。
おそらく恩恵も何も持っていない。戦いの経験もなさそうだ。
どうみてもテレーザより立派とは思えないんだがな
冒険者の世界はある意味とてもシンプルにできている。
ランクが高いやつが上の実力主義だ。
まあランクの高さをひけらかすような奴は評判を落としていずれ損をするから、それを笠に着て威張り散らすような奴はあまりいないんだが。
こういう面倒事は今後もあるんだろう。
なら、このくらい言えないと話にならないか
「別に貴族の地位はどうでもいいが……」
そう言うとテレーザの表情が強張った。
フェルナンが満足げに薄笑いを浮かべる。
「あいにくと、テレーザの護衛の立場は譲る気は無い」
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